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 バアン……! と勢いよく扉を開けてようやく屋上に出てきた時にはゼィゼィと肩で息をしなければならなかった。

 五階分の階段を一気に駆け上がるって、こんなにもしんどいのか。

「おー、はやーい」

 呑気にパチパチと拍手をしている成田に怒りのボルテージが急上昇して、カッと頭に血が上り勢いよく胸倉をつかんだ。

「おっまえ恥ずかしいだろうが! 何してくれてんだっ!」
「いっけー、やっちゃえぃ!」

 成田からじゃない、別の愉しげな声がて胸倉をつかんだままそっちに顔を向ける。

 成田以外に人がいるの事に全く気付かなかった。

 そこに立っていたのはハニーブラウンの髪が柴犬を彷彿とさせるような男の子だった。

 背は低い訳ではないが顔の造形のせいか幼く見える。
 ニコニコと笑ったまま片腕を頭の上に掲げて、まるでプロレスでも観戦しているみたいだ。

「なんだ? これ」

 成田に対する怒りも抜けて「やーれ、やーれ」と手拍子付きではやし立てる人物をポカンと眺めた。

「これって俐音ちゃん……失礼だよ? 一応は先輩なんだから」
「あはは! ほーちゃんも失礼だ、よ!」

 先輩は笑顔のまま“よ!”の部分で成田の鳩尾へ拳をきれいにめり込ませた。
 日本語じゃ言い表せないような音が成田からした気がする。

 お腹を両手で抱えながら前に倒れ込む。

「ぐほぁっ! え、と……こちらに、おわすは二年の緒方 馨(おがた かおる)様に、あらせ、られまする」

 突然の打撃に立ち直れない成田に、おかしな日本語で紹介された緒方は明るく笑った。
 
 自分の足元で蹲る成田の様子を見る気はないらしく、その視線は俐音の方にのみ向けられている。

「どうも、鬼頭です……」
「よろしくね!」
「よろしく。な、成田、その……大丈夫か? 色々と」

 口から血が出てるし。ちょっとしたホラーだぞ?

 こそこそと耳打ちしてみる。

「アハハ……平気。いつもの事だから」
「そうか」

 いつもの事か……。

 手の甲で血を拭う成田から目を逸らして、これ以上この話題は危険(緒方の笑顔が怖い為)と判断し、無理やり話を変えた。



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