彼女が笑顔を失った日 | ナノ




「………」

「なあ…いい加減なんか喋れよ」

「…」

「あー、喋らねーとお前切り刻むよ?」

「…」

「無視かよ」

「…」

「あ、そっか
そーいや今日だったっけ
あいつが死んだ日」

「!」

「しし、だからそんな暗い顔してんの?」

「…」

「図星?
なあ、そろそろあいつのこと忘れろよ」

「黙れ…



黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ」


「ししっ
そんなに怒んなって」

「…」

女はキッと男を睨んだ。

「オレ、お前のそういう顔だぁい好き

なあ、お前はオレを恨んでる?復讐したい?」

「うるさい…黙れ黙れ黙れー!!!」

女は大声をあげると泣き崩れた。

「あの日のお前もずっと泣いていたっけ
それに怯えた顔してるのにオレに刃物を向けたよな」

「嫌…
嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌
その話は、その話はしないで」


「でもオレはお前を殺さないで拾った
王子優しいー♪」

「…っ」

「あの時の絶望満ちた顔
サイコーだった」

「お願いします…あの時の話をしないで」

「ヤだね」

「どうして…どうしてあの時私を殺してくれなかったのよ」

「…」


「殺して」

「しし、それ本気?」

「嘘をついている目に見える?」

そう言って女は、前髪に隠れている男の目を見つめた。

「ふーん
じゃあ…ぜってー殺さねぇ」

「最低」

「うしし」

「何で…何で貴方は私に昔から嫌がらせをするの?
そんなに私が嫌い?」

「さあね」

「そう」

女は窓の外を見つめた。
どこか遠くを見ている感じだった。

「なあ、お前の瞳に映っているのはオレ?それともあいつ?」

「わからない…」

女には大切な主がいた。
その主は八年前に、この男に殺された。

そして男が言うあいつとは、女の主の事で、その主はこの男の兄だった。


「なあ、あいつは死んだんだぜ?」

「だから?現実を見ろとでも」

「…そうじゃなくて」

「じゃあ…………んっ」

男は女に無理矢理口づけをした。

「オレはオレだし…オレはあいつじゃねぇんだから」


そう言って男は女から離れた。

「そんなことわかって」

「いいや。お前はいつだってわかってねーよ
お前はあの日から時々…あいつの面影をオレに求めてた」


「そんな」

「お前も気づいていただろ?」

「………」

「キスした時だってそうじゃん
お前は」


「何で何でそんな事を私に今言うの?
何で今日言うのよ…」

「しし、だって今日言ったほうがお前悩むだろ?」

『さいってー』

「ししし」

「ねえ、ベルフェゴール」

「あん?」

「覚えてる?…昔、あんたが私に花束をくれた時のこと」

「覚えてねぇ
それジルがやったことをオレやったことだとお前が勘違いしてんじゃね?」

「そう…
私、嬉しかったんだ
誰よりも早く誕生日プレゼントくれたから」

「あっそ」

「嬉しかったんだよ。本当に」

「でもさ、お前
あの日から笑ってないじゃん」

「あんたが私の大切な人を殺したからでしょ?
それに私
笑えないんじゃなくて」


“わざと笑わないんだよ”

「?」

「私だって無理すれば笑えるよ?」

「じゃあ何で」

「誰かさんが笑うなと言ったからかな?」

「は?」

「じゃあ私、出かけるから」

「待て何勝手に」

「大丈夫逃げたりしないから
何年一緒にいると思ってんのよ
逃げるんだったらとっくに逃げてたわよあの日にね」


「死ぬなよ」

「ふふ、まだ死なないわよ
あんたにまだ復讐してないんだから」


そう言って女は部屋から出ていった。


「今日はやけに素直だったな」

部屋に一人残された男がぽつり呟いた。


「それにしてもあいつがまさか花束のことを覚えていたなんて


あぁこんなことで喜んでるなんてオレ馬鹿じゃん」

───




「ベルいるかい?」

「あ?
なんだマーモンかよ」

「君に渡す物があってね」

「何だよ」

「彼女から頼まれていたんだ
今日の午後11時59分ちょうどに遺書を渡してくれって」


「は?」

「はい。これ」

「ちょっ待て」

「僕はもう用は済んだから帰るね」

そう言うとマーモンと呼ばれていた赤ん坊は部屋から出ていった。

「嘘だろ…
あいつが…何でだよ」

男は壁にナイフを投げつけた。


「なあ、起きろよ」

『…え?ベル様』

「しーっ」

『…?』

「ほら、誕生日おめでとう」

『わあ、花束だ!』


男は女の笑顔を好きだった。
だが男が女の笑顔を見たのはあの日の一度きり。




「まだ復讐してねーじゃんかよ」

男は小さくそう呟いた。



男は数年後女と再開する。
女の横には死んだはずだった───



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