今すぐ私を抱きしめてなんて言ったら彼はどんな顔する?
「恭弥」
「…何しに来たの?」
「怖い顔しないでよ。ただ、遊びに来ただけ」
私は並中風紀委員長の雲雀恭弥の彼女だ。
でも今まで彼女らしい扱いを受けたことがない。
手を繋いだこともないし、デートに行ったこともない。
本当に、私は彼女なのか?
「ねぇ」
「何?恭弥」
「目障りだから早く出てってくれない?」
「はいはい、わかりました」
冷たい、だけどそれが彼なのだ。優しさなんてない。告白したのも私からだし、恭弥は私のこと好きじゃないのかな?
素直に部屋から出たけど本当は私、恭弥ともっと一緒にいたかった。
「恭弥、恭弥…」
私は泣きながら無意識に彼の名前を呟いた。
何でこんなに切ない思いをしなくちゃいけないのかな?
彼のこと大好きなのに。
彼は私を見てくれない…っ。
私だって年頃の女の子だ。デートだってしたいし、彼と一緒にいたい。
どうしたら、彼は私を見てくれる?
わからない。私にはわからないよ。
――――――
彼とはもう何日も会ってない。
でも…これでよかったんだと思う。
…彼は私のことを邪魔だと思っていただろうし。
私たちの関係がこのまま自然消滅すれば、もうあんな思いしなくても良いんだ。
“さよなら…恭弥”
私はそう心の中で呟いた。
その時だった。
肩を後ろからガシッと掴まれたのは。
「…っ!」
「…何でそんなに驚くの?」
「恭弥…」
一番会いたくない相手が目の前に現れた。
「君、なんで最近応接室に来ないの?」
「邪魔だと思って」
「…君がいないと寂しいんだけど」
「!」
「…この間はごめん。強く言い過ぎた」
「謝らないで私がいけなかったんだから
…じゃあ、今日は用事があるから」
私はそう言ってこの場から逃げ出そうとしたが彼が私の手を掴んで離さなかった。
「逃がさないよ」
「…っ」
「君は僕の彼女でしょ?
嘘ついて僕の側から離れるなんて許さないよ」
「彼女なんて言わないでっ!
私は、恭弥に好きとか愛してるとか言われたこともないし恭弥とデートしたこともないんだよ…こんなの彼女じゃないよ」
私はそう言いながら涙を溢した。
もう、どうなってもいいって思った。
「…泣かないでよ」
彼はそう言って私を抱き寄せた。
「…なんでこんな時に優しくするの?」
「君を愛してるからに決まってるでしょ…
ごめん…君がそんな風に思っていたなんて知らなかった」
「…恭弥は悪くない
私が我が儘なだけ」
「これからはデートだってするから
僕の側からいなくならないで」
「……」
私は小さく頷いた。
ああ、私はやっぱり彼が好きだ。
嫌いになんかなれない。
だから、これからもずっと側にいよう。