1mルール | ナノ
 


起きるのが少し憂鬱だった。
今日が来てしまうのが嫌だった。
でも来てしまったのだから仕方がない。

私は覚悟を決めた。

大丈夫。私はもう恋愛感情などというものを捨てたのだから。
私は先輩をただ尊敬していた昔の自分に戻っただけなのだから。


――――

「先輩」


「ん、約束通り来たな」

「私は約束を破らない女ですから」

「じゃ、行くか」

「先輩、私をどこに連れていく気ですか?」


先輩が歩き出したので私は慌て後を追いそう質問した。

「特に決めてねーけど
オレはただお前と二人きりで出掛けたかっただけだし」


…何でこの人はそんな台詞をさらっと言えるのだろう。

先輩への恋心を封印したのに
何で私の心は乱れているのだろう。


「お前さ、この間一人で出掛けてた?」

嘘でしょう?
先輩、気づいてたの?


「はい
イルミネーション見に行ったんですよ」

「実はオレもその日街に出掛けてたんだよね」

「そうだったんですか
気づきませんでしたよ」

私は嘘がバレないかひやひやする。

神様、どうかお願いします
先輩に嘘がバレませんように。


「本当に気づかなかった?」

「はい」


「あっそ、まあこの話はもういっか
そういやお前、話すとき何でオレから目をそらすんだよ?」

「…!!」


「どうかした?」

「別に何でもありません」

「しし
お前本当嘘が下手だよな
何かあるって顔してんじゃん」

「本当に何もありませんから!」

私はつい声を張り上げてしまった。
そのせいで通行人がこちらをチラチラと見てくる。


「なあ」

「はい…」

「お前がオレの顔見て話さなくなったのって何が原因?」

「原因なんかありませんよ」

「嘘吐くなって…
何が原因か言えよ?」

「…っ」


言えるわけがない先輩が原因だなんて。

「まさかとは思うけどお前
あの日オレが女と歩いてんの見てた?」

「…!」

「その反応…
やっぱ見てたんだ?」

「ち、違」

「じゃあ何で慌ててんだよ」

慌てれば慌てるほど私は墓穴を掘ってしまった。
ああ、過去に戻りたい。

先輩と仲良くなかったあの頃に戻りたい。

先輩を影から見るだけで満足していた自分に戻りたい。



「言っとくけど隣にいた女は彼女じゃねーからな」

「え?」


「どう安心した?」


「別に安心なんかしてません」


「しし、まあ良いけど…じゃそろそろ帰るぜ」


「はい」


安心とは違うけど、
私の心は少し軽くなった。
ああ、私
先輩が好きで好きで仕方ないんだ。
先輩への恋心を封印なんてできないんだ。

「先輩」

「ん?」

「今日の任務頑張りましょうね」


私はそう言うと先輩の服の裾を掴む。


「言われなくても
あ、お前いい加減裾を掴むのやめろよ」

「あ、はい」

私が慌てて裾から手を離すと先輩は私の手を掴んだ

「服の裾なんかじゃなくてこっちのが良いだろ?」


「はい!」


先輩と私の心の距離はいったい何メートルなんだろう。

いつか距離を縮められる事は可能なのだろうか?



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