短編 | ナノ

少女は何かを大切に握り締めながら大好きな先輩のもとへと走っていった。
先輩を見つけると少女は大きな声で先輩を呼んだ。

「先輩っ」

「んー?」

「今度一緒映画観に行きましょうよ!」

「ヤダ」

「えー…」


少女は断られて落ち込んだのかその場に座り込んだ。少女の様子にびっくりしたのか先輩はしたのかに声をかけた。

「……名前?」


「あー…先輩に断られたショックで死にそうです」

少女はわざとらしくそう言った。


「ししし
勝手に死ねよ」

「先輩ひどーい」

「だいたい何でオレと映画観に行きてーの?」

「………えっ」


少女はびっくり顔をして先輩のことを見つめた。また、先輩もそんな少女を見て少しびっくりしていた。

「言えねーの?」


先輩にそう聞かれて少女は黙り込んでしまった。実は少女は先輩のことが好きなのだ。大好きな先輩と一度でいい、一緒に出掛けてみたい…少女はそう思い勇気を振り絞って映画に誘ったのだ。
“貴方のことが好きだから誘いました”そんなことを言ったら、先輩はきっと…そう考えると怖くて理由など言えない。


「……っ」

少女は潤んだ瞳で先輩を見つめた。すると先輩は少女の頭をクシャクシャと雑に撫でると
「映画、一緒に観に行ってやってもいーぜ」と言った。
それを聞いて少女は嬉しそうに笑うと「ありがとうございます」と言った。


映画を一緒に観に行くのは来週の金曜日に、と少女は先輩とそう約束をした。
少女は早く来週の金曜日にならないかワクワクしていた。いつもだったら絶対引き受けない任務も引き受けたりと舞い上がっていた。

それがいけなかった。

少女は約束の前日に怪我を負ってしまった。
最低でも一週間は安静に、と少女は医師から注意を受けた。
少女は泣いた、自分が調子に乗っていた所為で。先輩との約束を破ってしまう結果になってしまった。自分から映画に行きましょうと誘ったのに。少女は自分しかいない病室で静かに泣いていた、その時だった。


「名前」

声が聞こえた方向に少女が顔を向けるとそこには先輩が立っていた。

「せ、んぱい?」

「ししし
なあ、怪我大丈夫かよ?」

「あ、はい。大丈夫です」

少女は慌てて涙を服の袖で拭うとそう言った。

「…本当に大丈夫なのかよ」

「えっ?」

「泣いてたじゃん、お前」
先輩に泣いているのを見られた。少女は驚いて黙り込んでしまった。そんな少女を見て先輩は何を勘違いしたのか少女を抱き締めた。

「…無理すんなよ」

「せ、先輩…っ」

いきなり憧れの先輩に抱き締められた所為か、少女の頬はみるみるうちに赤く染まっていた。

「お前、弱いくせに無理なんかするから…」

「すみません」

「謝んなって…
あのさ…こんな時に言うのは変かも知れねーけど。オレ、お前が」

先輩が何かを少女に伝えようとした瞬間…

「すみません、先輩」

まるで独り言を話しているかのような小さな声で少女はそう言った。

「はあ?」

これには先輩も驚いたようで珍しく間抜けな声を出した。


「約束、破ることになっちゃって…」

申し訳なさそうに少女は少し俯きながらそう言った。“約束”その言葉を聞いて、少女が何故落ち込んでいるのか
わかったような気がした先輩は
「怪我、治ったらさ一緒に映画観に行こーぜ」
優しくそう言った。
少女はその言葉を聞いた瞬間泣き出した。少女の反応に驚きながらも先輩は優しく少女の頭を撫でた。

「先輩、」

「んー?」

「今の本当ですか?」

弱々しい声でそんなことを聞いてくる少女を愛しく思った先輩はいつものように笑うと
「当たり前だろ」と言った

「嬉しい、です」

少女はそうポツリと呟いた。


「あのさ、お前怪我治んのとか、大体いつとかわかる?」

「あ、一週間安静にしてれば大丈夫みたいです」

「はぁ?」

「えっ」


二人とも相手が言ったことにびっくりして驚いた声を出した。


「オレ、お前が大怪我して歩けないくらい重症って聞いてたんだけど」

「誰がそんなこと言ったんですか…
私、そこまで酷くありませんよ」

「あー…」

自分の勘違いに気がついた先輩は恥ずかしそうに少女から離れた。

「先輩?」

「………オレ、帰る…」

「あ、待ってください」

少女は慌て先輩を引き留めようとしてベッドから降りようとした時

「…っ」

慌てていた所為でベッドから転げ落ちそうになってしまった。

「あぶねっ」

それに気がついた先輩は落ちそうになった少女を受け止めた。
「す、すみません…」

「ったく、お前本当に危なかっしいな…」


先輩からそう言われて少女は少し落ち込んだ顔をして、先輩から視線を逸らした。

「すみません、ダメダメな後輩で」


小さな声で少女はそう言った。


「名前」

「何ですか…?」


少女は少し不安そうに視線を戻し、先輩の顔をじっと見つめた。すると先輩は少女に顔を近づけてきた。少女がびっくりして目を瞑ると先輩は少女の額に口づけをした。

少女が驚いて固まっていると先輩は少し笑いながら
「元気になるおまじない」
と言った。



少女は驚いたからか恥ずかしかったからか黙って先輩を見つめていた。先輩の顔をちらりと見ては視線を逸らす、というのを何回もやっていた。先輩を見る度に少女の頬は赤く、赤く染まっていった。そんな少女を見ていた所為で少し恥ずかしくなってきたのか先輩の頬も赤く染まっていた。

「は、早く怪我治せよ、…もう今度こそオレ本当に帰るから」

「は、はい」

「またな、名前…」

そう言うと先輩は少女がいる病室から出ていった。
少女は先輩がいなくなって少し寂しくなったが先程口づけされた額を優しく触ると口元を緩めた。





「早く先輩とお出掛けしたいなー」



少女はそう独り言を呟くと、ふふふっと笑った。