短編 | ナノ

初めて人を殺したのは自分を守るためだった。真っ赤に染まった自分の手を見た瞬間、私の中の何かが壊れた。
道徳とかそんなの私には関係ない。


悲鳴を聞くのが楽しくて
苦しむ顔が見るのが楽しくて
泣きながら命乞いをする人間を見るのが面白くて私は自分の快楽のために人を殺したい。


「いーち、にぃー、さーん、よーん…」

声を出して指折りしながら私は殺した人数を数えていた。



「はーち、きゅーう、じゅう!」

10人、か。
今日は少し殺し過ぎたかなぁと思い少し反省。後始末が大変なのよね、さてと死体を片付けなきゃ誰か来る前に。
そう思った瞬間――――

コツ、コツと足音が聞こえてきた。
私は驚きながらも自分の武器に手をかける。
今から逃げるのにも時間がかかる
この現場を見られたら…即、殺さなければ。


「みーつけた」


急に聞こえてきた男の声に私はびっくりしながら声の聞こえてきた方向に見たがそこには誰もいなかった。


「嘘、」

私は驚いてそう呟いてしまった。さっき確かに人の声が聞こえたはずなのに。


「こっち」

「………っ」

後ろから肩を叩かれた。

「わかってるとは思うけど騒いだりすんなよ?
ま、騒いだりしたらどーなるかわかってるだろうけど」


男がそう言ったとたんに私は頬に何か冷たい物が当たる感覚があったので私は怖ず怖ずと自分の頬を見てみた。すると頬にナイフが押し付けられていたので私は驚いて声にならない悲鳴をあげた。


「ししししし」


「な、なんで…」

「んー…最近ここらで悪さしてる奴がいるって聞いたから
暇潰しに見に来たら…まさかこんな弱そうなガキだったとはね
あーあ、期待外れ」

「……っ」


そんなこと言われても困る。私は、私は―――――


「ん?」

「うるさい、私は、私はただ楽しいから殺していただけなのに、何であんたにそんなこと言われなきゃ…」


そう言ってから私はハッとした。ヤバい、何を言っているんだ、私は。相手は刃物を持っているのにそんなこと言って相手を怒らしたら殺されてしまう。怖い、怖い、怖い、怖い。嫌だ、まだ死にたくない。
そう思った瞬間今まで殺してきた奴等の顔が頭を過った。ああ、私が殺してきた奴等も今の私のような気持ちだったのだろうか。


まだ
“死にたくない”
だけどご機嫌取りや命乞いなんかしたくない。
どうせ死ぬなら…


「ねぇ」

「ん、」

「あんた、私を殺すの?」

「さあね
なあ、まだ死にたくない?」

「まだ死にたくはない」

「へぇ」

「だから、私はあんたを殺す」


私はそう言いながら後ろを振り返ると無我夢中で男を押し倒した。
今まで私は男の顔を見ていなかったがこれでやっと男の顔が見えた。
月明かりに照らされた男の顔はとても綺麗だった。



「…てんめっ」

男に見とれていたらいつの間にか今度は私が男に押し倒されたので私は慌てて抵抗した。

「い、嫌…っ」

「そんなに暴れんな…っ」


カチャン、と何かが落ちる音がして私はびっくりしながら音がした方を見ると男のティアラが落ちていた。


「…王子のティアラをこんな風にして
どーなるかわかってんの、お前?」


「…………」


私が目をそらすと男は、まあ、いいや。と呟き私の上から退いた。

「お前のこと気に入った」

「え…?」

私が驚いているのを無視して男は落ちていたティアラを拾うと私の頭に被せた。


「やるよ」

「え?何で…」

「さっき落とした時に傷が付いたからお前にやる」


どうして、何で男はこんなことをするの?わからない。私には男の考えていることがわからない。

「なあ、お前ヴァリアーって知ってる?」

「名前だけなら知ってる」


暗殺集団でしょ?噂で聞いたことがある。と私が言うと男は、なら話が早いと言い出した。

「お前、今は全然まだダメだけどちゃんと修行とかすれば案外強くなると思うんだよね」


「……」

「ボスにはオレから話をつけてやるからさ……ヴァリアーに来いよ」

「ねぇ、ヴァリアーに入ったら
人を殺し放題できる?」

「ししし
お前、本当に殺しが好きだな」

男はそう言って笑うと私の頭を撫でた。

「………あんただって好き、なんでしょ?」

「まあね。で?ヴァリアー入るか決めた?」


「……入る」

「ん?」

「入るって言ってんの!」

「ししし
お前気が強すぎ
まあ、そーゆーとこが気に入ったんだけど
…オレの名前はベルフェゴール
お前は?」

「名前」

「ししし、名前
よろしくな」

そう言って笑う男の顔はとても格好良くて不覚にもときめいてしまった。


「ほら、名前
そろそろ行くぜ」



これから私は暗殺部隊に入隊する、今までよりもっと殺しができると聞いてスゴく楽しみだ。

「うん!」

でも何よりも楽しみなのはこの男の側にいれることだったりする。