あれは確か今日みたいに月が綺麗な夜の出来事だった。私はその日色々あって少し急ぎ足で歩きながら家に帰ろうとしていた。
疲れて家に早く帰りたかった私は普段しない近道で帰ろうとしていた。近道をするためには少し薄暗い公園を通らなきゃいけないのだが私は急に怖くなってきて公園の前で足を止めた。 今更…、今更戻るのは時間がかかるし。行くしかない… 頑張るのよ、私。 そう思い歩き出そうとした瞬間だった。 「…っ!?」 急に後ろから肩を叩かれ私は声にならない悲鳴をあげた。私は怖かったが慌てて後ろを振り返った。そしたら男が立っていた。男は私の様子にびっくりしたのか慌てて謝った。 「ワリー…驚かすつもりはなかったんだけどさ」 「…………何か私に御用ですか?」 「あー…別に用ってワケじゃねーけど こんな時間に彷徨いてたら危ないぜ」 「はあ…」 男は私のことを心配していたみたいだった。 「お前、家は何処?」 「このすぐ近くですけど…」 「良かったら家まで送ろっか?」 「えっ、いや大丈夫です」 「遠慮すんなって 一人じゃ怖かったんだろ?さっきの様子じゃさ」 「…すみません。よろしくお願いします」 図星だったので私は断る事が出来なかった。初めて会った人に家まで送ってもらうなんてかなり危険な事だが私は何故かこの男の事を悪い人とは思わなかったのだ。 家に送ってもらうまでの間に私と男は色々と話をした。男の名前はベルフェゴール。お仕事で日本に来たらしい。どんなお仕事をしているかは教えてもらえなかったが、凄く楽しい一時だった。 「あ、ここです」 「ん…」 「ありがとうございました」 でも楽しかった一時も家に着くと同時に終わった。 「これからは遅い時間に彷徨いたりすんなよ?」 「だから今日は偶々ですって」 「ししし、でもまあお前とこうやって色々と話せて楽しかったぜ じゃあな、名前」 そう言って男は手を軽く振りながら立ち去ろうとした。 「あのっ!」 「ん?」 「また会えますか?」 私は男とまた会いたいと思ってしまい そう男に質問した。 すると男は少し困った顔をした。無理もないだろう突然そんな事を訊かれたのだから。 「来月」 「えっ?」 「今月は忙しくて会えねーけど来月なら会えるぜ それでもいいなら」 「あ… 私は大丈夫です」 「ん、じゃあ来月 あの公園で」 「は、はい!」 そして今日がその約束の日。 私は楽しみで待ち合わせの一時間前に公園に来てしまったので男が来るまでまだまだ時間がある。 早く会いたいなぁと思いながら空を見上げていたら突然名前を呼ばれた気がして後ろを振り返ると男が立っていた。 「名前」 私は急いで男のもとに駆け寄った。 ああ、どうしよう嬉しすぎて口許が緩んでしまいそうだ。 「久しぶりですね」 「そうだな 元気にしてた?」 「はい!」 「なら良かった」 「あの、今日はわざわざ会ってくださってありがとうございます」 私はお辞儀をしながらそう言った。すると男は笑いながら私の頭を撫でた。 「ししし そこまでしなくてもいいのに オレもお前に会いたかったし」 「えっ…本当ですか?」 「ホント、ホント」 たとえそれが嘘だとしても男がそう言ってくれた事が私は嬉しくてついつい口許が緩んでしまった。 「んじゃ、そろそろ場所替えて ゆっくりとお話でも」 そう言って男は私の腕を掴むと歩き出した。 夜はまだまだ終わらない。 これから私は男とどんなお話しようか? そう考えるだけで私は楽しい気分になった。 |