短編 | ナノ

 
ない、ない、ない。
私は左手の薬指にはめていた指輪をなくした事に気がついた。
あの指輪は一週間前に、もうすぐ私の誕生日だからって彼から貰った大切な指輪だったのに。
嬉しくてずっと指輪をはめていた私がいけないんだ。

彼に殺される…。

なんとかして見つけなければ。

でも、どこでなくしたんだろう。皆目見当がつかない。



「名前何してんの?」

「ぎゃっ!」

突然後ろから肩をぽんっと叩かれた所為で私は驚いてしまった。

「ししし、驚いた?」

「驚くよ普通っ!」

私は振り返ると彼を睨み付けた。

「お前に睨み付けられても全然怖くねーし」

「うっ…」

私なんかが睨み付けても彼は全然平気だった。
スゴく怒りたかったが今は彼と喧嘩してる場合ではない。一刻も早く指輪を見つけないと…

「あり?お前今日いつもと違くね?」

「えっ…イヤだなぁ。私はいつもと同じだよ」

「お前なんか嘘ついてねぇ?」

「う、嘘んなんかつくはずないじゃん!
あはは…」

これ以上彼と会話していると必ずボロが出てしまう。なんとかしてここから逃げよう。

「……なあ」

「なに、ベル?」

「お前なんかあっただろ?」

「へ?」

「だってそわそわしてるし」

「気のせいだよ。気のせい」

「……手、見せろよ」

「えっ…何で?」

「だってさっきから隠してんじゃん」

左手を見られたらヤバいと思ってさっきポケットに左手を突っ込んだった。なんとかして誤魔化さなきゃ。


「あ、任務で怪我しちゃって
ベルに見られたら笑われそうだったから隠したんだよね」


「怪我?大丈夫かよ…」

「うん。大丈夫ー」

「手、見せろよ」

そう言うと彼は私の左手を無理やりポケットから出させた。
ヤバい。指輪してないのバレる。

「た、たいした怪我じゃないから…」

「………怪我って別にどっか切ったわけじゃねーんだ」

「あ、うん。
えっと…突き指したの」

こう言っておけば手に傷がなくても怪我したって思うはず。嘘をつくのは心苦しいけど今回は仕方ない。

「ふーん」

「私って本当にドジだよねー」

「…怪我してんなら指輪つけれねーな」

「う、うん。
だから早く怪我を治したいなぁ」

これで大丈夫。上手く誤魔化せた。私が思ったその瞬間だった。



「うしし…じゃあ、これはお前のじゃねーってこと?」

彼の手には私が探していた指輪があった。

「な、なんでベルが持ってるの?」

「ししし、お前が昨日オレの部屋に忘れたのを届けてやろーと思って持ってた」


「えっ…」

つまり彼は最初から知っていたのだ。私が指輪をなくしたことを…


「うししっ…驚いた?」

「…うん」

「てか嘘ついてんじゃねーよ」

「痛っ」

彼は私の腕を強く掴むとニヤリと笑った。
これから私は何をされるんだろう。なくしたことを隠して嘘までついたんだ。ただじゃ済まないだろう。
怖い。逃げ出したい…


「お前もしかして泣きそうになってる?」

「……うん」

「ししっ
別に殺したりはしねーから安心しろ」

私が頷くとそう言って彼は私の頭を撫でた。


「本当に?」

「オレは嘘つかねーし」

「…うっ」

「今度指輪なくしたらどうなるか
わかってるよな?」

「はい」

「ししっ
じゃあ、今日のところはこれで許してやるよ」

彼はそう言うと私の右頬に軽くキスをした。
私が驚いて彼の顔を見つめると彼はいつものように笑った。