短編 | ナノ

あいつの部屋のドアをノックした。あいつは泣いていたらしく震えた声で「ちょっと待って」と言うとドアを開けた。

「しし、遅すぎ」

「…ごめん。ちょっと泣いてた」

そう言ってあいつは涙を拭って笑った。
まあ、泣いているのはわかっていたから別にいいけど。

「あっそ」

「…あの、ベル」

「ん?」

「昨日はごめんなさい」

あいつは涙を溢しながらオレに謝ってきた。あー…泣かれると正直ウザイんだけど。

「別に気にしてねーから泣くなよ」

「ベル…っ」

オレが少し優しくしてやるとあいつは抱きついてきた。調子に乗んなよ、バーカ。

「お前、可愛いすぎ」

まあ、これは本当。あいつは可愛い。泣き虫だしウザイし調子に乗るけどオレの彼女だし。

「ベルはカッコいいよ」

「うしし、だってオレ王子だもん」

「そうだね」

あいつはそう言うと笑顔になった。あいつの泣き顔も好きだけど笑顔の方が好き。

「なあ」

「なに?」

「愛してる」

こんなこと言うのは性に合わないって知ってる。
でも言うとあいつが喜ぶから。

「私も愛してるよ」

「ししし」

オレはあいつの喜ぶ顔が好きだから、どんなことだってするし どんな言葉だって言ってやる。

「ベル」

「ん?」

「何でもないっ」

あいつはそう言ってオレを強く抱き締めた。
ししっ、本当バカ。何でもないわけねーだろ。
言いたいことあんなら言えっつーの。
まあ、でも抱き返したオレもバカかもしれない。