4万打 | ナノ




「名無」

「なによ?」


昼休み、教室で音楽を聞いていると同じクラスで友達のベルフェゴールに声をかけられた。


「また、お前一人で音楽聞いてんのかよ」

「悪い?」

「別にぃー。それにしても、お前って寂しいヤツだな」

「うるさいわね、一人で音楽聞いてる人なんか世の中には、たくさん居るわよ」


「…てか何聞いてんの?」

ベルフェゴールは私の隣の席に座るとそう訊いてきた。

「ヒミツ」

「ちっ…つまんねぇ」

「あんた、昼御飯は食べたの?」

「まだ」

「へぇー…なら私なんかに構ってないで
愛しの彼女さんと食べてくれば」


ぼそっと呟くと私はベルフェゴールから視線を逸らした。ベルフェゴールはつい最近学年いや学校一可愛らしい女子と付き合い始めたばかりのくせに、何で私なんかに構うのだろう。

「彼女と居るよりお前と居た方が楽しいし」

「ばーか、嘘言うな」

「本当、本当」

「信じられないわよ」


何故そんな嘘つくのか、私には理解出来ない。私のこと女として見てないのかしら。

私はイライラして音楽プレイヤーの音量を上げた。ベルフェゴールは私に話しかけてきたが、大音量で音楽を聞いている私はベルフェゴールが何を言ってるかわかるはずなかった。

「         。」

私が返事をしないでいると彼は最後に何か言うと自分の席に戻って行った。



ーーーーーー


授業が終わるとベルフェゴールはすぐ教室から出ていった。どうせ、彼女さんにでも会いに行ったんだろう、あんなこと言ってても彼女さんのこと好きなんだろう。

なんだか帰る気がしない私は教室に残って音楽を聞いていた。好きな人が自分以外の人と付き合ってしまい、好きな人を見てると胸が痛くなる、好きな人の隣に立ちたかった、そんな気持ちを歌っている…所謂失恋ソング。

まるで今の私みたいな歌。私はずっとベルフェゴールに片思いをしてる。初めて話した時から、ずっと。友達になるのも結構大変だった、最初は話しかけるのだって緊張して上手くいかなかった時の方が多い。
一番親しい女子は私だけ、なんて思っていたらこの様だ。バカだな、私…ベルフェゴールがモテることなんかわかっていたはずなのに。

私は自然と流れてしまった涙を制服の袖で拭うと窓の外を見た。空はすっかりオレンジ色、もうそろそろ帰ろうかと思い音楽プレイヤーの停止ボタンを押して椅子から立ち上がった、その時だった…。

校門に立っているベルフェゴールの彼女さんが見えた。いつもならベルフェゴールと仲良く帰ってる時間、それにベルフェゴールはすぐ教室から出ていったはずなのに……、何でまだ学校に?

私が不思議に思っているとガラッと教室のドアが開いた。

「おいっ」

「…な、なんで?」


教室のドアを開け教室に入ってきたのは、ベルフェゴールで…

「屋上に来いって言ったろ」

「聞いてない、」

「昼休みに言った」

昼休み?あ、もしかしてあの時に…?

「それにしても、私に何の用が」

「告白」

「えっ?」

「告白しよーと思って呼び出したのに」


ドキッと心臓が跳ねた。嘘でしょう、だって付き合ってる人がいるのに告白なんて…

「からかうのはやめてよ」

「本気なんだけど」

そう言いながら、ぐいっと顔を近づいてきた。

「ちょっと…」

「ななし」

私の耳元で私の名前を囁くとベルフェゴールは、しししっと笑った。

狡い、いつもは苗字で呼ぶくせにこんな時だけ名前で呼ぶなんて…

「ベルフェゴール、」

「ん?」

「彼女さんのところに行きな」

「は?」

「私に告白するなら、彼女さんと別れてからにしてよ」

私はそう言いながらベルフェゴールを見つめた。するとベルフェゴールは溜め息をつき、「…そーだな」と呟いた。





「私、ここで待ってるから」

「ん…すぐ戻ってくる」

そう言うとベルフェゴールはすぐに教室から出ていった。

彼女さんには悪いけど、今凄く嬉しい。
私はニヤけながら窓の外を見つめた、ベルフェゴールがここに戻ってくるのは何分後だろうか。

ベルフェゴールが戻ってくる、それまでの暇潰しにと私は音楽プレイヤーの再生ボタンを押した。
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