相合い傘 | ナノ
 


「あ、ベルフェゴール君…」

「ん、莉菜」


廊下を歩いていたら彼に会った。彼の手には先程まで飲んでいただろう紙パックの牛乳があった。
―――牛乳好きなのかな?

「ベルフェゴール君、この後の授業は?」

「化学、だけどめんどいからサボる
お前は?」

「私は現社だよー」

「うわ、すげぇ眠くなりそうな授業じゃん」

彼は言った後少し黙ってから嫌そうな顔をして「オレ、そーゆー授業嫌い」と言った。どうやら本当に嫌いらしい。

「まあ、あの先生の授業退屈だしね…」

「だよな、あと数学の…なんて名前だっけ
なんかすげぇ態度がムカつく奴」

「ああ、あの先生か」

「オレ、彼奴すっげぇ嫌い」

「そっかぁ」

「あと、オレの担任のさー」

彼は私に色々なことを話してくれた。まあ、色々なことと言ってもほとんど愚痴だったが。それでも私は少し彼のことが知れた気がして嬉しかった。ちなみに私は緊張してて上手く喋ることが出来ないので彼の話を聞いては、一生懸命相槌をうった。

「で、この間さ」

彼が何かを話そうとした瞬間、予鈴が鳴った。

「あ、もうそんな時間か」

「じゃあ、また今度話そうぜ」

「うん」

「じゃあな」

そう言うと彼はポンっと私の頭の上に手を置いて笑った。ああ、やっぱりカッコイイなぁ。



教室に入って席に着くと前の席に座っていた女子が話しかけてきた。

「ねえねえ、伊東さんってベルくんと仲良いけど付き合ってるの?」

「えっ、違うよ」

「そっか。なら良かったぁ…」

私が否定すると前に座っていた女子は、ほっとした顔をした。その様子見て私は…ああ、この子は彼の事が好きなんだと思った。

「……」

「伊東さんと仲良く話していたから…私てっきり
変なこと訊いてごめんね」

「いいよ、別に」

嬉しそうな顔して笑う女子を見ていたら、何故か胸がもやもやした気がした。





―――――

授業が終わると私は屋上へ向かった。屋上にでも行けば、気持ちが晴れると思ったからだ。この時間だ、まだ人も居るまい。そう思ったのに。

「………っ」

彼が屋上にいた。彼はフェンスに寄りかかって座っていたので私は恐る恐る彼に近づいた。

「ベルフェゴールくん?」

「………」

近づいてみてわかったのだが、彼は寝ているようだ。いくら人が居ないからって屋上で寝るなんて…私には出来ないな。

「それにしても…」

私は彼の前にしゃがみこんで彼をじっと見つめた。本当に綺麗な髪の毛。
その時だった、ふわっと風が吹いて彼の髪がめくられた。

「えっ」

いつも、前髪で隠れていた顔。こんな風だったんだ…。今は寝てるから目が見えなくて少し残念。

「ん…っ、莉菜?」

「え、わあっ」

突然彼が起きたことにびっくりして私はしりもちをついてしまった。

「ちょ、お前大丈夫かよ」

「だ、大丈夫…」

だって痛みなんか忘れる程の出来事があったんだもの。さっき…彼が起きた時、私は見てしまった。一瞬、ほんの一瞬だったけど、彼の瞳を私は見たのだ。普段髪に隠されていた彼の瞳は、とてもとても綺麗で…


「莉菜?」

「あ、なに?」

「お前、顔赤いけど…熱でもあるんじゃね?」

そう言われて私は焦った。だって、顔が赤くなってるなんて……恥ずかしい。

「だ、大丈夫、大丈夫だよ!」

「ふーん。ならいーけど」

「あ、そういえばベルフェゴール君は何で屋上に?」

「んー、オレのお気に入りだから」

「えっ」

「屋上好きなんだ、オレ」
「そうなんだ」

「お前は?」

「あれ、何で来たんだっけ」

「ししし、莉菜は天然かよ?」

「違うよ!」


あ、思い出した。
そうだ、私は胸がもやもやするから屋上に来たんだった。忘れてた…
あまりに衝撃的なことが多すぎたから。

それにいつの間にかわからないけど、胸がもやもやしてたのに………
彼と話した所為なのかな?そんなこと全部忘れちゃうくらいドキドキしたりしたから。

「ジョーダン、ジョーダン
あ、莉菜空見てみろよ」

「空?……あっ」

私は彼に言われるまま空を見上げた。今日の空は晴れているから青空で、しかも雲一つない。綺麗な空だった。

「ししし、綺麗な青空だろ」

「うん、雲一つない…綺麗」

「なんか、こーゆーの見てると嬉しくなれるよな」

「うん」

「なあ、莉菜」

「なに?」

「明日も屋上来いよ、オレ待ってるからさ」

「うん、わかった」

私がそう言うと彼は口元を緩めた。


屋上にて


彼と話してると凄く楽しくて嬉しくて
凄くドキドキする。
しかも明日も屋上で、なんて…ああ、凄く楽しみだなぁ。


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