相合い傘 | ナノ
 


下校時刻になっても、彼を見つけられなかった。
仕方なく彼の上着を持ったまま帰ることにしようと思ったのだが…

「嘘」

私が外に出た瞬間、雨がザアっと降り始めた。
どうしようか…私は今日に限って傘を忘れてしまっていたので帰りたいのに帰れない。

雨が止むのを待ちたいところだが、そんな時間はない。

私が仕方なく雨に濡れながら帰ろうとした時だった――――



「よかったら
一緒にこの傘に入ってくれね?
一人で使うのには大きすぎるんだよねー…ししし」

私が慌てて後ろを振り向くと、そこには傘を持った彼が立っていた。



「ベル君…」

「久しぶり、莉菜
元気だった?」

「なんで…」

「お前が傘忘れるなんて珍しい」

「ベル君…」

「ほら、暗い顔してねーで
一緒に帰ろーぜ」

そう言って彼は笑いながら私の腕を掴んだ。


――――――



「ベル君」

「んー?」

「ありがとう」

彼の傘に入れてもらって、少し歩いた頃に私はそう言った。


「礼なんかいらねーし」

「で、でも」

「いーから」


彼は前と同じように私に接してくれるが、私は前と同じように彼と接してるかな?


「ベル君」

「なに、莉菜?」

「ごめんね」

私がそう言うと彼は少し驚いた顔をした。けど彼は黙って頷いてくれた。

「ベル君…」

「オレ、莉菜と会話できなくて
すっげぇ寂しかった」

「…ごめん」

「でも、謝んなくていいから」

「え?」

「莉菜から謝られても嬉しくねーから」

そう言って彼は笑った。

「あのさ、莉菜
オレ前に気になる奴いるって言ったじゃん?」

彼の言葉に吃驚してドキン、と心臓が跳ねた気がした。

彼が、あの日屋上で言った事を私は忘れたくても忘れられなかった。
彼が気になる人とは誰なんだろう、羨ましいなとあの日の私は思った。
そして、その気持ちは今も変わらない。
彼の気になる人が羨ましい。きっと、その気になる人は私が前に見かけた人で…

「うん、言ってたね…」

「覚えてた?
でさ、オレそいつが好きって気づいてさ」


「そっか、」

彼の言葉を聞きたくない。彼の好きな人の話なんて聞きたくない。
雨音が彼の声を掻き消してくれたら良いのに、そう思った。けれど雨音が強まる気配はない、寧ろ弱くなってきている。
ああ、雨が止みそうだ。
私の心は土砂降りなんだけどなぁ。


「莉菜」

急に彼が止まって私が不思議しそうにしていると彼は私の莉菜を呼んだ。


「なに?」

「オレ、莉菜が好き」

「……えっ?」

思わず聞き返してしまった。だって、彼の言葉が信じられなくて、私の聞き間違いだよね?と思ったからだ。

「だから
好きって言ってんの」

「誰が?誰を?」

「オレが、お前を」

パニック状態だった私の頭もやっと理解した。
さっきの言葉は聞き間違いなんかじゃないって事が。

「ねぇ、ベル君」

「ん?」

「私も、ベル君が好きです」

そう言った瞬間、恥ずかしくなって頬が熱くなってきた。きっと今、私の顔は赤くなっている事だろう。

「マジ…?」

「私は嘘なんか吐かないよ」

私がそう言うと彼は嬉しそうに笑った。

「ししししっ
あー、良かった。フラれるかと思ってたし」

「て、てかベル君
何で突然告白なんかしたの?」

「んなの莉菜が好きだからに決まって」

「私、びっくりしたんだからっ」


嬉しいからなのか、驚いたからなのか
私にはわからなかったが、急に涙が溢れてしまった。

「ししし
莉菜泣いてる?」

「泣いてないよ…これは雨だよ」

「嘘、もう雨降ってねーし」

彼の言葉に驚いて辺りをキョロキョロと見渡してみた。…雨が降ってない。

私が茫然としている間に彼は傘を畳んでいた。

「莉菜」

私の頭を優しく撫でると彼は私を抱き寄せて、キスをしてきた。

「…っ、ベル君!」

「嫌だった?」


彼は私が嫌と言えない事をわかってて訊いてくる。
ああ、もう…

「嫌じゃないよ
嬉しかった」

私がそう言うと彼は満足そうに笑った。


すべては
あの雨の日から



あの雨の日、出会えたのは運命だったって信じてもいいよね?

「ベル君」

「ん?」

「す、き…」

恥ずかしくて、まだ彼から視線を逸らしながらしか気持ちを伝えられないけど…

彼が嬉しそうに私の頭を撫でてくれるから、今はこれでもいいよね。

ずっと、ずっと
大好きだよ。

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