「うわ、スゴい雨…」 私がそろそろ帰ろうとしていた時、雨が降ってきたのだ。急なことに私は驚いて、つい独り言を呟いてしまった。 「………まあ、誰もいないか」 独り言を呟いても誰も何とも思わない、だって誰も傍に居ないから。 ざあざあ、と雨音が次第に強くなってきた。 この様子じゃ…止む気配は無いな。仕方がない、幸いロッカーに置き傘してあるので帰り道濡れる心配はない。私ってなんて、こんなに運が良いのだろう? よし、ロッカーに置き傘を取りに行こう。 私は急いでロッカー置き傘を取りに向かった。 「お、あった」 ロッカーから置き傘を探し、手に取った私は 嬉しくてつい口元が緩んでしまった。最初ロッカーの中がごちゃごちゃしててなかなか置き傘見つからなくて、もしかして置き傘なんてのは最初からない?とか思ったりしたけど見つかって良かった、良かった。やっとこれで家に帰れる。 私は嬉しさのあまり鼻歌を歌いそうになったがここは一応学校なのでやめておく。 さてとそろそろ帰るか、雨が酷くなったりしたら大変だし… そう思って廊下を歩き始めた時だった。 「……っ!」 「わ…っ」 金髪の男子とぶつかってしまった。突然のことに私は驚いて謝るのも忘れて黙ってしまった。 早く、謝らなきゃ。そう思ってるのになかなか言葉が出ない。 「あ、あの」 「ん?」 「すみません、ぶつかってしまって」 私はそう言って何回も頭を下げた。すると目の前にいる金髪男子は笑った。 あれ、私、なにか変なことをしただろうか? 私が驚いて目をまんまるく見開いていると、それに気がついたのか金髪男子は笑うのを止めた。 「あ、悪ィ お前の行動が面白くて、つい」 「はぁ…」 「えーと、お前…名前は?何組?」 「伊東 莉菜。A組です」 「ふーん オレはE組のベルフェゴール。よろしく、な」 ベルフェゴール、聞いたことがある。クラスの女子がよく彼の噂をしている。確か、成績が凄く良いのに授業をサボりまくって… 「あ、はい。よろしくお願いします」 「ししし、タメなんだからさ フツーに話せよ」 「はあ…」 そう言われても私には無理だ。もともと男子と話すのは慣れてないし、それに彼のような性格の男子は特に苦手で、無意識でこんな口調になってしまう。ああ、早く帰りたい。てか、帰ろう。それが安全だ。 「あの、ベルフェゴールくん…?」 「んー?」 「私、雨がこれ以上酷くなる前に帰りたいから、そろそろ…」 「えっ お前、傘持ってんの?」 「あ、うん」 「よかったらさ、駅まで入れてくれねぇ?」 「えっ」 彼が突然そんなことを言ってきたので私は驚いた。どうしようか?男子を傘に入れるなんて私には無理だ…しかも駅まで、か。ごめんなさい、私、男子と話すの苦手なんです。そんな免疫ないんです。しかもクラス、いや学年中の女子から人気のイケメンと相合い傘なんて!嬉しいシチュエーションかも知れないけど凄く恥ずかしいし…うわあああ想像しただけで無理。 でも私が傘に入れなきゃ彼は、この土砂降りの雨の中を傘をささないで濡れながら帰ることになるのは可哀想だ。えーい、仕方ない。駅までの間だけなんだし。 「勿論いいよ、私でよければ」 私がそう言うと彼は嬉しそうに笑った。 ――――― 「マジでサンキュ」 「いいよ、いいよ 困った時はお互い様だよ」 学校から出て、駅へ向かう道を歩いていると彼が申し訳なさそうな声で何度も謝ってきた。 「だって、お前とあんまり話したこともねーのにさオレ、図々しかったよな」 「そんなことないよ」 それにしても、彼は私が思い描いていたイメージと違った。だってよくクラスメイトの女子達が“ベルフェゴール君って格好良いけどなんか近寄りがたいよね”と噂しているのを聞いていたからこんな話しやすい人だと思わなかった。 「あ、もうすぐ駅に着くね」 「そーだな お前は何処で降りんの?」 「え、私? …ベ、ベルフェゴール君は何処で?」 まさか質問されるなんて思わなかった。 私は彼の質問に動揺しながらも、とっさに彼に質問し返した。 「オレは、○×駅」 「へぇ、そうなんだ… あ、ちなみに私は電車通学じゃなくてバスなんだ」 私がそう言うと彼は少し驚いたような顔をした。私がバス通学だってことが余程衝撃的だったのだろうか。 「ふーん。バスか」 「うん…あ、駅着いたね」 「今日は、マジでありがとな」 「どういたしまして」 「じゃ、また明日学校で」 「うん、バイバイ」 駅に着くと彼は走って行ってしまった。私も電車通学だったらもっと一緒に帰れたのかな…なーんてね。 あーあ“また、明日”か。 頭の中で彼の言葉がリピート、早く明日にならないかな…。 私は回れ右をして、駅からバス停へと行く道を歩き始めた。ふと、空を見ると雨は止みそうだった。 出会い 雨が止んだのが駅に着いてからで良かった、なんて思ってしまった。 |