熱気が立ち込める。
真っ赤な炎が私を閉じ込めてしまって、もう逃げ場が無かった。
いや、それ以前に逃げる気なんて。
「卿は逃げないのかね?それとも命乞いか?」
「…命乞いなんて」
自分の命なんてどうでもいい。
秀吉様も半兵衛様も、刑部さんもいない。
そして三成さんもいなくなってしまって。
これ以上この世に留まる意味は無い上に、辛さばかりが募るだけだ。

「…私は此処で死ぬんです」
足は使い物にならない。あとは此の場で死を待つのみだ。

「私は卿の為にこうしたというのに、壊してくれというのかね?」
「…私、の」
それ以上、声は出なかった。
「みょうじなまえ。
豊臣最後の宝を壊してしまうのは実に惜しい」
その男の欲に染まった手が私をそっと抱き上げた。
まるで儚く脆い瑠璃の珠でも扱うような。
炎上する城を背景に、私の思考は暗転して融け始める。
「みつなり、さん」
咄嗟に呼んだその名前が誰かもわからない。
ただ、
わかるのは目の前の男だけ。

「なまえ…卿は哀れで美しい」

城を焼く炎が、松永と私をも焼き殺してしまえばいいのに。
叶いもしないだろうそれは、融けた思考の蝋と焼け崩れる城の中へ埋もれていった。
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