「…」
「…」

「…気のせい?」
「…ではないな」
かすがの一言で私は泣きたくなった。できれば気のせいだと思いたかったのに。
「お前、一体何をした?あのままだとお前きっと殺される」
「何もしてないよー…」
石田君が見ている。
それはもう、私を貫通してしまうくらいの視線で、私を見ている。

「皆お前が石田に何かしたんじゃないかと思ってるぞ」
「知らないよっ!ほら私、石田君とはあんまり喋らないようにしてるし」

私は石田君が苦手だ。
見た目の通りかなり怖い人で、基本斬首だの斬滅だの怒鳴っている。
…親友で隣のクラスの吉継君は良い人なのに。

「なまえ!何で石田に睨まれてんだ?」
「伊達、良い所に来た」
そこへやってきた政宗君。かすがは政宗君に耳打ちした。
「石田になまえを睨んでいる理由を聞いてこい」
「Ah?なまえが何かしたんじゃねーのか?」
「違うよ!」
政宗君までそんなこと言って!…でも確かに、穴が空きそうなくらい睨んでて、私も自分が何かしたとしか思えなくなってきた。

「Hey.石田」
結局かすがに押されて政宗君は石田君への特攻を開始した。
「さっきから何で俺のhoneyを睨んでんだ?」
「…」
「Do you understand?」
「…誰だ貴様は」

政宗君と石田君が喧嘩を始めた(片倉先生が仲裁に入った)為にかすがの作戦は見事に失敗した。

「なまえ、一体どうしたんだ?」
「あ、家康君」
隣のクラスの家康君が、休み時間に来た。
家康君とは接しやすくて、結構好き…だけど背中に刺さる石田君の視線が心無しか酷くなった気がする。
「石田がなまえを殺しそうな目で睨んでいるんだ」
「ははあ、三成の奴…」
家康君は可笑しいと言わんばかりに笑う。
こっちは「斬滅してやる」の一言と共に死がやって来るか分からなくて授業もまともに受けられないのに!
「三成ー!」
家康君が突然石田君を呼んだ。私は口を開けて唖然、呆然。
「儂はなまえと付き合うからなー!」
「…!?ちょ、家康君何言って…」
はっと我に返って、紡ぎ出そうとした言葉。
だけれど、続かなくて、
「いえやすぅうう!!!!」
そんな石田君の怒声に取って代わられてしまった。
「斬滅してやるぅうう!!」
「ははは!今日も活気付いているな!じゃあ儂は三成を宥めてくるから、なまえ、まあせいぜい頑張ってくれ」
「ちょっと…」
どういうことなの?とまた言えないまま、家康君は教室から出て行ってしまった(石田君が追い掛けていったのは言うまでもない)。

「…成程」
かすががぼそっと呟く。
「どうしたの?」
「石田がなまえを睨んでいた理由が分かった」
多分殺されないとだけ、さっきの家康君みたいに笑いながらかすがは言って。私は訳が分からなかったけど、「きっと」から「多分」殺されないに変わったことに妙な安心感を覚えた。

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