「クワトロ大尉!」
「どうした?」

赤い軍服が派手で目立つクワトロ大尉はすぐに見つかった。カミーユくんと帰投したばかりの大尉は狭い通路を二人で占領して何やら話し込んでいたみたいだ。
話を遮ってしまうのは申し訳ないが、ここは私の仕事をさせてもらうことにする。

「いえ、今度の作戦のことなんですが……」
「手短に頼む」
「作戦についてのお話が手短に済んだら戦争なんてすぐに終わらせることができますよ」
「みょうじ少尉はなかなか賢いな……」

サングラスに隠れている目が泳いでいる気がする。カミーユくんを気にしているのだろうか?
実際カミーユくんの機嫌が悪くなっていっている。大尉はこの少年から一発食らったという噂を聞いたことがある。

「ですから大尉。ここは狭いですし向こうでお話ししましょう」
「ああ。そういえばエマ中尉から紅茶を分けてもらったからそれを飲みながらというのはどうかね?」
「紅茶なんて飲みながら話をするから戦争が終わらないんですよ」

あ、まずい。
カミーユくんの前でこんな俗っぽい会話をするんじゃなかった。そしてカミーユくんの意見は的を射ている。

「息抜きも大事だぞ。少尉、行こうか」

クワトロ大尉に連れられて談話室まで行くその後ろを物々しいプレッシャーを放ちながら距離をあけつつもカミーユくんはついてくる。

「……大尉、これがニュータイプなんですか?」
「今のカミーユはそれよりもすごいかもしれないぞ」
「それよりも……」
「思春期の男は若さ故に限界以上の力を発揮するものだ」
「あ、やっぱりカミーユくんって年上が好きですよね」
「私を連れ出すという君の判断は正しかった」
「結果カミーユくんはついてきていますけどね」

カミーユくんのことだからこの会話も聞こえているかもしれない。チラチラとカミーユくんを気にしながら談話室に着いた。
クワトロ大尉がソファに座るとカミーユくんもふてぶてしくソファに座る。しかも、私とクワトロ大尉の間だ。

「カミーユ」
「僕がここにいてはおかしいですか?」
「いや、大いに結構だ。カミーユにも次の作戦には参加してもらうつもりだったからな。ただし他言無用だ」
「何を他言無用にするんですか?みょうじ少尉と大尉のことですか?」
「何を勘繰っている。私とみょうじ少尉の間には何もない」

いつも以上にカミーユくんは噛みつく噛みつく。この様子じゃクワトロ大尉から紅茶は貰えそうにない。
それより大尉が可哀想になってきた。

「自分を偽っている上に今度は他人との関係も偽るんですか?情けない人だ」
「それとこれとは関係がないだろう」
「ありますよ!ないわけがない!」
「私情で動くのは懸命ではないぞ」
「私情なんかじゃない!」
「二人ともそこまでですよ!」

白熱してきた大人と子どもの口論を仲裁する。カミーユくんは既に拳を固く握りしめていたから間違いなくあと5秒くらいでクワトロ大尉のサングラスは部屋の向こう側まで吹っ飛んでしまっていただろう。

「大尉。作戦の話ならまた後でしましょう。私がカミーユに言い聞かせておきますから」
「うむ……私から言うよりその方がカミーユも素直に聞くだろう。時にカミーユ」
「何ですか?」
「女性の前ではもう少し余裕を持っていた方が良いぞ」
「なっ」

経験の差でカミーユくんは一杯食わされた。
クワトロ大尉は『頼む』と一言だけ言い残して部屋を出て行った。やれやれ、暴力沙汰にならずに済んで良かった。

「何かっこつけてるんだろうね、あの人」
「全くですよ」
「それはこっちのセリフ!まったく、カミーユくんもカミーユくんだよ!あんなに躍起になっちゃって」
「あの人レコアさんとセックスした仲ですよ」
「また関係のない話を持ち出して」
「ありますよ。分かってます?向こうにはいるんですよ」

カミーユくんは私と大尉をどうしてもそういう関係にしたいらしい。本当は嫌なくせに、どうしてそんなことを言うんだろう。本当は………。

「カミーユくんは、私が『クワトロ大尉が好き』って言えば嬉しい?」
「……嬉しいわけないでしょ」
「だったら今のままで良いじゃない」
「良くない」

カミーユくんの目が私を見据えてくる。
宇宙より深い色をした目は、大人と子どもの境界線を映している。
私はこんなカミーユくんが好きなんだと思う。どっちつかずの、世界でただ一人の少年。

「カミーユくんはまだ自分を偽るには早いよ。カミーユくんはまだそんなに大人じゃない」
「羨ましいですか?」

最後の最後に本音が漏れそうなのを、カミーユくんの口を塞いで凌いだ。
自分を偽るくらいには、もう大人だ。



2016
こんなはずじゃなかった…カミーユとラブラブしたかったのに何でなんだ。
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