ハロをメンテナンスしている大尉はこっちを全然見てくれない。別にハロに始まったことじゃなくて、何かを機械をいじってる間はずっとこんな感じだ。

金属工具の擦れる音がする。大尉の後ろ姿はほとんど動かない。
背中は広くて壮年の男性らしい。流石はエースパイロット。でも、視線をもう少し上にやると可愛いくせ毛が見えてちょっとくすっと笑いたくなる。大尉のくせ毛、すっごく触ってみたい。

「この回路は…」

大尉は幸い気付いてない。
連邦のエースパイロット、アムロ・レイを落とすなら、今だ!

「わっ!……あれっ」

私が大尉の髪めがけて伸ばした手はスカッと外れてしまった。手には何の感触もなくて宙で指だけぴくぴく動いている。

「大尉は後ろにも目が付いてるんですか?」
「あいにく人よりは勘が鋭いからね」

大尉は回転椅子をくるっと回して私の奇襲を回避したらしい。
さすがニュータイプ。エースパイロット。私みたいな青二才が大尉の背後を取ろうなんて甘すぎたんだ。

「ところで、どこを狙ったんだ?」
「大尉の髪いいなぁーって思ってつい」

残念そうな私を見て、優しく笑ってくれる大尉は私にメモを渡してくる。ブライトに渡してくれ……ってそれ体よく私を追い出そうとしてません?私はそんなことで絆されるほど甘くないんですよ!

「大尉ってば、私は雑用が仕事じゃないんですよ。そんなに暇でもないですし」
「暇な人間は俺の髪を触ろうとして背後から奇襲をかけたりしないさ」
「うっ……仕方ない。これ艦長に渡してきます」
「頼んだよ、なまえ」

それからもう一度ハロの修理に取り掛かる大尉。
もう一度狙うけれど、次はハロをいじりながらうまく首だけで回避された。反応速度がどんどん良くなってる。

「次やるときはもっと上手くやります」
「次もっと上手くやったとしても分かるよ」
「えええー!? 」
「分かるさ」

諦めてブライト艦長のところへ行こうとした私の方を振り返って余裕の発言。
でも、大尉に見つめられてそんなことを言われると、私に勝ち目はない。大尉の目はこの世界の誰よりもクリアに見えている。それを恐れている兵士なんてごまんといる。みんな絶対に逃げられない。

「なまえの気配だからね」

私もその中の一人であることも揺るぎない事実。


2016.05.19
大尉のフィンファンネルで撃ちぬいてくれ
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