「借りちゃったよ〜!!」

帰り道にレンタルビデオ店で私はカンフー映画のDVDを借りた。
このみょうじなまえ、苦手なものは赤司君、好きなものは格闘技だ。

「さっさと家帰って見ちゃお〜!」
「へえ?何を?」
「!?」

聞き覚えのある声の主を直感するより早く、私はダッシュした。

あ、あの声は間違いない…!

「人の顔も見らずに逃げるなんて、失礼だよ」
ねえそうだろう?と私の肩はがしりと掴まれた。額を冷汗がダラダラと伝うのがよく分かる。

「あ、赤司君!奇遇だね!部活はどうし「先に言うことがあるだろう?」ごめんなさい!全力で謝るからハサミしまって!」

赤司君がハサミを持ったら世紀末が来る。
ここは土下座してでも謝るというのが赤司君との賢いコミュニケーションだ。

「それで、今日は部活は?」
「ああ、諸事情で今日は休みだ。だからDVDでも借りようと思ってね」
「赤司君も映画とか見るんだね…」
「なまえは僕のことをどう思っているんだ?」
「いいいや、な、何か世俗的なもの興味なさそうだなあ〜って思っただけです…!
そ、それより何借りたの?」
「僕はこれだ」

赤司君の見せてくれたDVDのタイトルは『ウォール街の悪夢』と書かれていた。

「…スプラッタ?」
「君が言いたいのはエルム街じゃないか?」
「違うの!?」
「資本経済の闇について昨今のテロリズムや共産主義などの極右や極左と結びつけながら描いた有名な映画だ」

超社会派じゃん!
高校一年生が見る映画じゃない!

「僕だけが見せるのはフェアじゃない。
なまえは何を借りたんだ?」

私は硬直してしまった。
ここで、赤司君に私が借りたDVD(タイトルは青龍伝説)を見せてしまったら。

『へえ…こういうの好きなんだ。
君の将来が不安になるよ』

とか言われて、遠くも近くも恋愛的な将来
に絶望しそう…!!
他の人ならまだしも社会派映画を高一で鑑賞する現実目線の赤司君から言われたら…

間違いなく絶望する…!!
プライドがズタズタだ…!!

「い、いや、赤司君。あのね、社会派映画を鑑賞されるような方に見せられるものではございません…!」
「見せて」
「見せられません!」
「見せて」
「見せない!」
「なまえ、
いつから僕に逆らう程偉くなった?」
「すみませんでした!!」


私はプライドの死守よりも目先の恐怖に怯んだ。

「私が借りたのはこれです…」
「…青龍伝説?本当にベターなありがちな名前だね。カンフー映画か。好きなの?」
「うん…格闘技全般好きだから…」
「へえ」

赤司君は見るだけ見て、DVDを私に返してきた。

あれ?何にも言われてない?

「?」
「何か言われると思った?君の将来が不安だよ、みたいなこと」
「え…えと…まあ…」
「別にそんなことは言わない。確かに女性らしくはないかもしれないけど、それがなまえらしいということだろう?」

それから赤司君は笑った。
いつものサディスティックな笑顔だ。

「それに僕はたまに僕に刃向かってくれるくらいの子が好みだからね。
躾甲斐がある」

…私はさっき下手にプライドを守ろうとしたことを大いに後悔した。
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