突然ながら俺は恋をしたっす。

相手は隣のクラスの出席番号10番、なまえっち。

先日笠松先輩に「本気なのか?」と聞かれたので俺は「もちろんっす!」と返した。
信じていない様子の笠松先輩に俺はなまえっちへの想いを語ってあげたっす。
すると笠松先輩は顔を真っ青にして逃げていったんすよ。

先輩は初心なんすよ。
俺は赤面を通り越して顔面蒼白になった人を生まれて初めて見た。
これは愛の勝利っすね。

小堀先輩にこの愛の勝利を報告すると白けた目で見られたっす。
そんなに俺のことが羨ましいんすか?


「馬鹿ね。それは2人とも貴方のことを頭が沸いてると思ったのよ」
「そうなんすか!?」

なまえっちに先の愛の勝利報告をすると、いつもの冷たい返答が飛んできた。
でも俺に対する愛の裏返しって分かってるんすからね!

「ホント素直じゃないんすから!」
「…黄瀬君。やっぱり貴方、頭沸いてるんじゃない」

そのままなまえっちは手元の本に視線を戻してしまう。

なまえっちの趣味は読書。
この生徒もほとんど知らないこの場所でなまえっちは大抵、読書している。
それと美術部だから絵を描いているか。

「なまえっち、今日も読書っすか?」
「そうよ」

なまえっちがモテるのは百も承知っす。
嫉妬しないと言えばウソになるけど、
一番のヤキモチの標的は本とキャンバス。
悔しいけど、俺はそこで下手に回ることになる。

「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…突然黙り込んでどうしたの」
「!」

初めてなまえっちから喋りかけてくれたから俺の体が反射的に跳ねる。

「変な人ね。いつもしつこく喋りかけてくるくせに、
私から喋りかけると驚くのね」

本当に頭沸いてるわ、となまえっちが笑う。
いつもの嘲笑じゃない、見てるこっちがくすぐったくなる笑顔。

「なまえっち、俺やっぱりなまえっちが好きっす」
「私は何とも思ってないわ」

なまえっちの視線は再び手元の本に。

無敗の文字の羅列に一敗食わせたことと、
なまえっちの笑顔を見れたこと。

今日の放課後の練習は心なしか調子良かったっす。
[ ]