「なまえの一番上のお兄さんは元気しとるね」
「うん。なんか医者になったんだけど、うちもよく知らんところに呼ばれとるらしくて……何してるのかさっぱり……あ、ごめんメッセージが」

『なまえちゃん、あと1時間くらいお兄ちゃんと遊んでてね!』

「杏ちゃん遊んでるみたいだからもうちょっと待とう」
「うーん杏と神尾ってそんなに仲良かったか?」

ぐううう杏ちゃんと神野……だったかな?神野くんが付き合ってることと、二人がデートする為に桔平を引き離す役目を引き受けてしまったことを隠し通さねばならない。

「でも、なまえが付き合ってくれたけん良かったばい」
「でしょ〜。だから私にスターゲイジパイね!」
「ははっ、分かった分かった」

桔平の大きな手がぐしゃぐしゃと私の頭を撫でる。
こうして一緒に歩いて、背の高い桔平が私の頭を撫でたりして、やっぱり桔平と私の関係は離れてもずっと変わってない。多分。
埋まらない身長差と同じでこれからもずーっと変わらない。そう考えると、身長差も嫉妬するだけじゃなくて、安心もする。

「うおおおドラえもんフェイスクッション!」

雑貨屋さんの前を通ったら、私がずっと欲しかったドラえもんのクッションが『やあ』と私に挨拶してくる。
あれ、私今何考えてたんだっけ。まあいっか。

「なまえ持っとらんかった?」
「あれはニョロゾのぬいぐるみだけん」

桔平には青くて丸ければ一緒なのかね。あれ桔平がくれたやつじゃん。
私はドラえもんフェイスクッションのタグを見る……と、値段はまさかの1500円。

「1500円……」
「どうしたと?」
「私1500円ちょっきりしか持っとらん……」
「なら買えんたい。税別価格だけんね」
「ひいいい外税!」

1500円とちょっとあるドラえもんフェイスクッションは買えない。さっき楽譜を買ったんだから仕方ない。できればフェイスクッションが欲しかった。

「なんね、欲しかなら俺が買うばい」
「桔平……」
「なまえにはいつも世話になっとるけん。今も」

桔平は私からドラえもんのフェイスクッションを取ると、そのままレジに持っていってしまう。待て待て待て待て待て!

「外税だよ!?」
「そっち!?」
「心配せんでも良かよ」

桔平は颯爽とレジに持って行ってしまった……桔平のマネジメント能力すごいな。中華鍋買った上にドラえもんの高級フェイスクッションまで買っちゃうのか。しかもフェイスクッションは私の為に。それと今『そっち!?』って聞こえた。一体誰だ。

「!?」
「神尾くんのせいで見つかるとこだったじゃない!」
「ご、ごめん杏ちゃん……し、しかも、見つかっちゃったみたい……」

近くの陳列棚の所に、いた。雑貨のパンダの耳がついた帽子を被って何してるんだろうあの2人……ああデートだった……あんなパンダ帽子なんて2人で被ってリア充かい。って付き合ってるんだった。

「2人ともこんなところでデートしてたの?」
「え、あぁ……まあそんなところかな?」
「杏ちゃんどうしたの?」

杏ちゃんが珍しく慌てている……一体何があったのか。隣の神野くんも苦い顔をしている。

「神野くんやましいことでもあるんですかね?」
「俺神尾っす」
「神尾くんやましいことでもあるんですかね?」
「やましいことなんてないっす!」
「そうだよなまえちゃん!」

神尾くんの目はめちゃめちゃ泳いでるけど、杏ちゃんはまっすぐな目をしている。これは神尾くんだけがやましい心を隠し持っているな……。

「ふーん……」

「なまえ、どうかしたか?」

後ろから声をかけられてびっくーん!と肩が上がる。
振り向くと桔平が中華鍋だけじゃなくラッピングされた袋を持って立っていた。

「い、いやぁ?何でもなかよ」
「そうか。ほら、クッション」

ただ私に渡すだけでもいいのに桔平はラッピングまで頼んだらしい。

「ご、ご丁寧にどうも……」
「何ね、そのよそよそしい返事」
「ごめん、ありがとう」

前にくれたニョロゾぬいぐるみも綺麗にラッピングしてからくれたんだっけ。
桔平はいつも優しい。
プレゼントをくれるのは友達みんなにだった。特別不思議なことじゃない。
ただ、ラッピングなんて気にせずプレゼントしてた桔平が私にだけ、決まってプレゼントはラッピングしてから渡してくれた。中身は人よりちょっと大きいプレゼント。子どもにとってそれが絶妙な分かりやすさで、とっても嬉しかったんだっけ。

少なくとも、私は特別だったんだって。
そんな優しい桔平が、大好きだったんだ。


「で、そこにいる神尾と杏は何してるんだ?」

そんでもって妙なところで鋭い桔平にはいつも恐れ入ってたんだった……。


「ば、バレてたの!?」
「当たり前ばい」

さすが橘さん。なまえさんは

何でコソコソしていたのかが分からんけど、と桔平が笑っている。杏ちゃんと神尾くんは脱力していた。そんなにデートを発見されたのがショックだったのか。

「そ、そりゃあなまえちゃんの言ったとおり私たちプレゼントを買ってたのよ!」
「そうそう!伊武に!」
「そうか。で、決まったのか?」
「え」

決まってない、と動揺しきった二人の顔には書いてある。桔平は仕方ない、といった感じで私の肩をポンポンと叩いた。

「なまえに選んで貰うと良か」






「私が選んでくれたプレゼント喜んでくれるかな?その伊武くんって人」

桔平からのプレゼントを抱えて帰る。桔平は私を家まで送ってくれるらしい。杏ちゃんは神尾くんが送っていった。正直神尾くんが送り狼にならないように桔平が見張ってくれる方がいいんだけどなぁ。

それにしても、送ってもらうなんて初めてだ。

熊本にいた頃は家も近くで送ってもらったことなんて無かったから、ちょっとこそばゆい。
夕日で誤魔化せればいいんだけど。

「さあ……なまえのプレゼントはいつも斬新だけんね」
「ねぇ、桔平今さ、いつのプレゼント思い浮かべたと?」
「全部たい」
「いやぁ、誕生日にやった顔面パイは今思うと斬新だったって思うばってん」
「それ以外もたい」
「マジかよ」
「でも、全部嬉しかったばい」
「そっかそっか」
「だけん、なまえが選んだプレゼントば伊武がもらうのがちょっと羨ましか。自分で提案しとってなんだけど」

桔平が、そんなこと言うのは初めてだ。

「桔平には、このドラえもんクッションのお返しせんといかんね」
「楽しみにしとる」
「もちろん。でも来月のお小遣いまで待っとって!お願い!この通り!」
「ははっ、分かった分かった」


ちゃんと来月のお小遣い支給を待ってくれる優しい桔平が、私は好きなんだと思う。




2016.04.27

なんとしてでも、本編の前にあげたくて……。
いやー実直な橘さんにたとえ時間がたってても愛されてみたい願望が出てしまいました笑

神尾が買わされたものはご想像にお任せします。

石原様のリクエストで企画しました番外編でした。
石原様、更新遅れてしまい申し訳ありません。そして、リクエストありがとうございました!


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