「なまえ、待たせた」
「全然待ってなかよ」

桔平が戻ってきて、辺りをキョロキョロ見渡す。
その高い背からさぞかし高みが臨めるであろうね!
……自分の唐突な嫉妬には自分でも対処しかねる。

「杏はどこに?神尾は来とらんと?」
「杏ちゃんと神野くんなら……」
「神尾ばい」

桔平はどうやら二人が付き合っているらしいことを知らないようだ。それなら黙っておいた方がいいかもしれない。杏ちゃんが隠してるってことだ。

「2人で出掛けてっちゃった」
「なーんね、ほんなこつ突然ばい。あの2人そぎゃん仲良かったとか」
「……そ、そうだね。な、なんか誰かにプレゼント買うって言ってたよ……」
「プレゼントか。伊武あたりにか?」
「あは、あはははは」

二人が付き合っているということを誤魔化さなければならないのか、胃がキリキリする。あと良い人を地で行く桔平に対する罪悪感がヤバイぞ。

「まあよかばい。杏も神尾もおらんけどせっかくだし、なまえに付き合って欲しかところがあるとよ」
「何?どこどこ?」

桔平がほら、と携帯の画面を見せてくる。大きな中華鍋の写真だ。

「近くのショッピングモールで中華鍋ば見たか」
「中華鍋?そういえば桔平は料理すって言いよったね」
「中華鍋ば欲しかとよ」
「そぎゃんと中学生が欲しがるものじゃなかよ」
「そうか?」

桔平は笑っているけど、マジで中華鍋を欲しがる中学生って桔平くらいしかいないと思うよ。

行こうか、という桔平の隣に並んで足を進める。
ショッピングモールはすぐそこだ。



実際にショッピングモールに着くと、落ち着いていた桔平のテンションがちょっと上がって、料理コーナーへと一直線だった。特に調理器具に明るいわけではないので、私はサンプルとして置いてあったカタログを見ていた。
ときどき美味しそう、と声が漏れるほどの内容だ。

「桔平の料理、いっぺん食べてみたか〜」

桔平が料理を作れるのは百も承知だけど、なんだかんだ食べたことはないかも。カタログは中華料理の欄、八宝菜とエビチリが載っている。

「桔平はどれ作れる?私なんだかんだ桔平の料理食べたことなかけんさ」

桔平が私の持っている雑誌を覗き込む。昔はこんなに近くにいると髪が触れていたのに、桔平は随分スッキリした髪型になったね。

「ん、メニューは何でも。食べたい物なら全部作ってやるけん」

何でも!?
じゃあ……八宝菜、エビチリ、肉じゃが、オムレツ、チキン南蛮、海鮮カルパッチョ、ハンバーグ、筑前煮……ああ!もう冷やし中華とお茶漬けと目玉焼き以外だったら何でもいいや!
それと……

「ムースケーキとか苺のタルトとかレアチーズケーキとかティラミスとか食べたい」
「なまえ……俺の食べれんもんば作らせて、自分1人で食べる気だな」
「バレた?」
「バレバレだな」

2人で思わず笑ってしまう。
桔平は甘いものダメだったね。桔平の分をよく貰ってたのを覚えてる。あと、バレンタインには桔平だけ特別に柿ピーにしてたっけ。あれ、今思うと本当に色気ないわ。

2人で少し雑誌を眺めていると、私は突然思い出した。1つ、一生に一度でいいから食べてみたいものがある。

「そしたら、桔平あれ作れる?」
「何ね?」
「スターゲイジパイ。あれ食べてみたか!」
「それって確かまるごと使ったニシンが顔ば出しとるイギリス伝統料理のパイだったか?」

パイから顔を出すニシンの図が思い出される。
私にニシンの墓地と名付けられるそのパイを是非味わってみたい。

「……万が一まずくても桔平が美味しくしてくれるよね?」
「まあー……作ったこつなかけん分からんけど頑張ってみよたい」





2016.04.26修正

話の流れがまずいところを修正しました。


[ ]