私は立海コートで業務をする時には自然と柳生くんのことを探してしまう。柳生くん、というこの世が産んだ奇跡は、私の理想である「知的、大人っぽい、メガネ」の3条件をクリアした上に「おや、貴女はそれで本当に満足なのですか?」とばかりに紳士を難なく上乗せした素敵な殿方である。
私は相手が本当にタイプにがっちりはまってしまうと最初の頃は喋れなくなる質なのだけど、柳生くんは私に話しかけてくれる。更には(この場合仁王くんから)助けてくれることも多い。

はぁ……素敵だ柳生くん。私をお嫁さんにしてください柳生くん。

「声に出てるぞみょうじ」
「あれ?ブンちゃん聞いてた?」
「俺にもバッチリ聞こえてたっす」

ブンちゃんと切原くんが私を呆れた目で見てる。柳生くんが素敵なのは世界の真理だから仕方ないわ。

「ささっ!私は柳生くんにドリンク渡してこーようっと!」

ドリンクとタオルをとって、柳生くんの元に駆け出す。柳生くんがいれば私は暑さなんてこれっぽちも感じないのだ。日差しもしつこいものから爽やかなものに変わる。柳生くんのいる人生はなんと輝いていることか!




「マジで柳生にデレデレだな」
「顔がまさに『たるんどる!』って感じっすね。ていうか丸井先輩、ヤキモチっすか?」
「ヤキモチねぇ……」

俺はニヤついている赤也を一瞥して俺の隣にいる幸村くんを見る。幸村くんはヤキモチどころじゃなくジェラシーの炎がますます油を注がれて燃え盛っている。

「なまえちゃんはどうして柳生ばっかり構うのかな」
「そりゃあみょうじ先輩は知的で大人っぽい人が好きなんでしょ?」
「俺も割りと当てはまると思うけど」
「幸村部長の場合は別のところでマイナスが働いてるんじゃないっすか」

知的50%、大人っぽさ50%、魔王−120%くらいだな。

「具体的にどんなところだい?」
「いや別に性格のことじゃないっすよ!えと、ええっと……あ!メガネ!メガネが足りないんじゃないすか?」

赤也、お前ほんとバカだろぃ。

「メガネか……」



「みょうじさんは、練習ははかどっていますか?」
「うん。邪魔するものもないし存分に弾けるからいいね!」
「それは良かった。しかし貴女の練習が第一ですのであまり外でご無理はなさらぬように。女性ですしね」
「女性……!」
「どうかされましたか?」

こうはっきりと女の子扱いされるのは嬉しい。跡部くんとか宍戸くんは柳生くんに弟子入りした方がいいよ。あと忍足くんもね。

「いいえ、何でも!」
「そうですか。それにしても日差しが強いですね。よければ日陰で休憩をご一緒しませんか?」
「えっ、いいの?」
「もちろんですよ。私もみょうじさんとゆっくりお話したかったところです」

よければ日陰で休憩をご一緒しませんか!?
私もみょうじさんとゆっくりお話したかったところです!?

私の頭の中で「うおおおおおおお!」「ゲリライベントだぁぁあ!」「落ち着け」「結婚しよ」「そううまくいくわけない」「やったぁぁあ!」と騒がしく言葉が飛び交う。
しかしながら、ここはせっかくのお誘いをお断りする理由もない。

「ぜ、ぜひご一緒に」
「良かった。それでは参りましょう」

うっひょーっ!と上ずりそうな気持ち悪い声を抑えて柳生くんの隣を歩く。私、なんて幸せなんだ。柳生くんとこの合宿で出会いこの合宿で距離を縮め、最終的にはゼロ距離……つまり人生を共に歩む伴侶となれるのでは……!もう私氷帝から立海に転校しちゃおうかな。


「柳生か。いいところに。なまえちゃんもお疲れ様」


……デスヨネー。

都合よく二人きりになれるはずがなかった。
笑顔の幸村くんが、私と柳生くんに声をかけてきた。いいところに、と偶然を装ってはいるけれどお供のブンちゃん切原くんを見れば分かる。無言ながら俯いているのが物語っている。

「おや、幸村くん。どうされましたか?」
「突然だけど、君のメガネを借りてもいいかい?」

メガネ!?
柳生くんのメガネを要求する幸村くん。何故だ。

「眼鏡ですか?」
「何でまたメガネを……」
「おい赤也!お前がけしかけたんだろぃ!」
「えええ!だって本気にするなんて思わなかったし」
「ねえブンちゃん切原くん、何があったの?」
「うるせえ!元はと言えばお前のせいだろぃ!」
「えっ」
「まあ特に理由はないんだけどね。貸してくれると嬉しい」
「そうですか。どうぞ」
「ありのままの幸村部長を愛してあげてくださいよ!」
「レリゴー?」

ありのままの幸村くんって……ありのままじゃない幸村くんの方がレアなんじゃない?
その幸村くんが柳生くんからメガネを受け取る……はっ!?

「どう?なまえちゃん、似合う?」
「柳生くん素顔もカッコいい!」
「ふふ、少し照れくさいですね。ありがとうございます」

柳生くんの素顔もキラキラと輝く王子様だった。この人は欠点を知らないんだろうか。オプション:メガネなんて柳生くんにあってもなくても関係ない。柳生くんという存在そのものが私を……

「みょうじ!お前!幸村くんを無視するんじゃねー!」
「うぶぅ!」

ブンちゃんの妙技・平手打ちが直撃した。めっちゃ痛い。
ちっとは柳生くんを見習え!

「いきなりぶつなんて!」
「お前が幸村くんをスルーするのが悪いんだろぃ!見ろ!」
 
ブンちゃんが私の肩を引っ掴んで幸村くんの方を向かせた。
柳生くんのメガネを装備した幸村くんは快活な笑顔を浮かべている。でも「ただの笑顔じゃ味気ないだろう?」と言わんばかりに怒りの炎を燃やしている。思わず、ひえっと声が出た。

「俺の真の敵は柳生のようだね」
「ど、どうされましたか?」

「焦ってる柳生くんかわいすぎか」
「この期に及んで柳生しか見えてないのかお前は!」
「お願いします!みょうじ先輩!幸村部長に一言かっこいいって言ってくださいよ!」
「なんで?」
「このままだと俺が殺されます」
「殺される!?何したの」
「幸村くんに足りないものはメガネだって赤也が言ったんだよ」
「オプション:メガネか……」
「早く言え!柳生は解放されるから早く言え!」 

背中を押されて一歩前に進み出た。幸村くんの物々しいオーラはそれはもう恐ろしいけど私は何とか口を開いた。

「ゆ、幸村くん」
「なまえちゃんどうしたの?」
「幸村くん、メガネ似合ってるよ」
「なまえちゃん……」
「でもメガネじゃない幸村くんの方が素敵だよ!」

幸村くんの物々しいオーラがぱっと消えた。
幸村くんはメガネを取ると柳生くんに手渡した。

「そっか。俺が野暮だったよ。
それで俺を愛してくれるんだねなまえちゃん 」
「いや、あのそれは ありのままの幸村部長を愛してあげてくださいよって言ったの赤也くんで!言葉の綾というやつで」


話の矛先が私に向いたことでブンちゃんと切原くんが安堵して息をついている。柳生くんは眼鏡をかけた後、私に苦笑いを向けた。私も思わずつられて笑ってしまった。

「みょうじさんも大変ですね」
「全くだぜ」
「ほんとっすよ」

……立海に転校したらしたで大変そうだなって思ったのでもうしばらく氷帝にいることにします。




2016/09/18修正

柳生に嫉妬するなら誰かなと考えた時になぜか幸村くんが思い出されました笑
多分Twitterのアイコンのおかげですね!書いていて柳生くんの良さを再認識しました。
Twitterでも仲良くしてくださりありがとうございます!記念絵嬉しかったです!
リクエストもありがとうございました!
これからもよろしくお願いします(*´∀`)
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