「なまえちゃんって運動得意?それともやっぱり運動音痴なん?」
「何を!一応ピアノやってるんだよ!音痴なわけないじゃん」
「運動だって言ってんだろ」
「……」

午後から雨が降り出し、室内でストレッチをしているところをじっと見ていたなまえは仁王と丸井にそんなことを質問を投げかけられた。なまえはすぐに真顔になって耳をぱっと塞いだのだった。

「みょうじ……」
「何も聞こえない何も聞こえない!あー幸村くんに聴覚奪われちゃったワー」
「苦手なんすね」
「むっ!水泳と木登りは無敵だよ!」
「やっぱり聞こえてんじゃねーか!」
「みょうじ……どこまでも爪の甘い奴だぜ」

水泳と木登りは得意というが、その場にいた立海レギュラー陣はなまえはそれ以外からっきしな気がしていた。ストレッチを『うわぁぁ痛そう……』という目で見てきた時点でお察しである。

「何なら一緒にストレッチやりましょーよ!」
「ええ!イヤだよ!ヤダヤダ!絶対痛いじゃん」
「慣れたら平気っすよ」

切原に誘われるものの、なまえは探検バックを盾にして拒否している。
この時、なまえは気付いていなかった。
目の前の切原にばかり気を取られて、背後に回った奴らがいたことを。

「はーいなまえちゃん捕獲じゃー」
「しまった!」
「立海式ストレッチに一名様ごあんな〜い」
「くっ!最初からこれが狙いだったな!?」
「背後にも気を配るんだったな」
「卑怯者っ!このヴェロキラプトル!」
「……みょうじ、ジュラシックパークでも観たのか」
「プリッ。これから俺たちが手取り足取り、なまえちゃんにストレッチを教えてやるぜよ」
「変な言い方しないでよ!柳生くん!お助け!」

なまえは迷わず柳生に助けを求めた。真面目な柳生はなまえの要請に笑顔で応えた、はずだった。

「立海式ストレッチはとても良いですよ」
「あ……う、え……」
「是非やりましょう!」
「はい……」
「みょうじ、哀れだ」

人選ミスった……そこで苦笑いしているジャッカルくんに頼むのが正解だった……とやはり後悔は先には立たない。


「ぐぐぐぐぐ……」
「ガッチガチだな、みょうじ」
「えへへ、ここまでです」
「褒めてねーっす。つーか、まだ上半身ほっとんど動いてないし」

自身のやっているストレッチを開脚前屈となまえは言うがただの開脚になっていた。

「本当にピアノしかしてないんだな」
「むむ、失礼な!私にだってできるストレッチあるぞ!ジャッカルくん!」
「へえ、何だよそれ。見せてみろぃ」
「じゃあ、うーん……切原くんそこに立ってよ」

なまえが指示するが、その場の全員が嫌な予感を覚えた。なまえはやる気満々で目をギラギラさせている。

「何するつもりなんじゃ?」
「コブラツイスト」
「それストレッチ技だろぃ!このバカ!」
「ええ……じゃあラーメンマンの得意技キャメルクラッチにする?」
「そういう問題じゃねーから!さっさとお前のストレッチやるぞ!」
「へーい」
「赤也が震えてる……」
「何あの人超怖い……」

大人しくまた座ったなまえは、結構呑気にしていた。

「で結局、立海式ストレッチってどうするの?」
「簡単ですよ。体を痛めない程度に負荷をかけるんです」

大人しく座っていたなまえは、結構後悔していた。

「それってただのストレッチなんじゃ……」
「ストレッチ技よりマシっすよ」
「いやそういう問題じゃないもん……」





「痛い!痛いよ!もうこれ以上はだめなのぉ!」
「まだまだ、後にブンちゃんもジャッカルも赤也も残っとるぞ」
「そんな……相手にしてたら私……」
「みょうじさん、今は私に集中してください」
「や、柳生くんっ……!」
「ほら、根をあげてんじゃねーよ!つまんねーだろぃ」
「ひどいこと言わないで……っ」


「うわぁ聞くだけならすごーく卑猥な会話だ」
「中で面白い顔をしながらストレッチでもしているのだろう」
「けしからんみょうじ!こんな破廉恥な声を出すなど……!」
「やっぱり破廉恥だよね〜」
「……幸村、その手のものは何だ」

ドアの前では幸村、真田、柳の三人が入りづらくて立ち往生していた。どうせやっていることはストレッチか何かだろうが。そして、立ち往生しているはずの一人、幸村の手にはばっちりスマホが握られていた。画面には時間が秒刻みで表示されている。


「レコーダーに決まっているじゃないか」
「後からみょうじが発狂するんじゃないか」
「俺も弦一郎に同意だ」
「いやだなあ、なまえちゃんが怒ったところでどうもできないよ」

外で録音されているなどつゆ知らず、なまえの声が外に漏れてくる。痛みを耐えて喘ぐのを必死に抑えている声だ。


「ん……っ……くー……っ!!」
「その調子です。でも、息は止めずに。ゆっくり吐いて、そうです……痛みに慣れてくるはずですよ」
「本当……?」
「慣れれば気持ちよくなってくるっすよ、せーんぱい」



「うおおおおおおおおお!!!!」


最後のやり取りに耐えられなくなったらしい真田がドアを蹴破り、一目散に切原に向かっていった。そして、切原が受身の体勢を取る前に鉄拳がクリーンヒットしたのであった。


「いってー!!副部長何するんすか!?」
「このたわけめ!みょうじ!お前もだ!」
「ストレッチより痛い!」


ついでに殴られたなまえは殴られた頭をさすりながら抗議の声をあげるのだった。大きく開脚した足を抑えるのは丸井とジャッカル、後ろから背中を押していたのは柳生で、手を引っ張っていたのは切原のようだ。


「みょうじ、外から聞いていたがあられもない声を出していたぞ」
「あられもない声?」
「うん。それはもう卑猥だったよ」
「ああ、実にけしからん!」


幸村は手元のスマホに表示されていた再生ボタンを押した。

『痛い!痛いよ!もうこれ以上はだめなのぉ!』というなまえの悲痛な叫びが流れ出したのだった。


「これは副部長が飛んでくるのも分かるわぁ」
「これはひどい……じゃない!なんで……なんで録音なんて!」
「つい魔が差しちゃって」
「魔が差した!?」
「(そんなこといったら幸村くんなんて)」
「(常に魔が差しまくってるだろ)」

あくまでも出来心を主張する幸村になまえは戦慄した。そして、幸村が『なんだかんだ理由をつけて削除を渋る』ことも想像がついて再び戦慄した。


「はあ……でもまだ録音でよかった。●RECされなくて本当に良かった」
「いや録画の方が幾分かマシじゃね?ストレッチしてた証拠になるんだしよ」
「ちっちっち!ジャッカルくん分かってないね!私の頑張ってる不細工な顔が流出するのは重要な問題なの!」
「確かにのう」

ピロリロリ〜ン


なまえは音のする方を見た。そこには、そういえばコイツストレッチ中何してたっけ?な仁王が立っていた。その姿を見て、血の気がサーッと脚の激痛と一緒に引いていくのを感じた。


「何そのハンディカメラ!?」
「プリッ」
「とぼけんな!撮った?撮ったの?私の何を撮った?え?」
「何も撮っとらんぜよ」
「ピロリン言ってたじゃん!消して!今すぐ消して!」
「何の事じゃ?」
「本当に盗撮犯みたいなこと言って……!盗撮犯だけど!」

仁王くんに詰め寄っていると、幸村くんが笑顔で近付いてくる。私の隣で殴られた頭を摩っている切原くんが真田くんに殴られた時以上に青くなっている。


「仁王……あとでそれ俺に送ってよ」
「おー幸村にはサービスして無料でプレゼントしちゃる」
「無料って聞こえたっすよ今!」
「ま、まさか仁王の奴、なまえの動画を売買するつもりか!?」
「し、信じらんねー……」
「白石辺りに1000円で買ってもらおうかと思っての」
「いや、白石ならば5000円で購入する確率98%だ」
「……」

なまえは驚きすぎて言葉も出ない。あの動画を流出させたら最後、自分の醜態が世間様に晒されるのである。どうせならプロレス技の方を撮らせておけば良かった……と思っていた。
しかし、こんなぜったい絶体絶命のピンチに陥ってもなまえにはまだ仲間がいた。


「お二人共、流石にそれはみょうじさんが可哀想ですよ」
「そうだぞ!みょうじの問題だ」
「ふ、二人とも!」

柳生と真田である。
なまえは内心真田には期待していないが柳生ならばなんとかしてくれるだろうと考えていたのだった。

「いやだな、これは立海式ストレッチを広める為の宣伝動画だよ」
「そうじゃそうじゃ。なまえちゃんも協力してくれるじゃろ?な?」
「なるほど!それはいい考えですね」
「えっ!?」
「確かに」
「ただの補助付きストレッチじゃん宣伝いらないじゃん」

なまえは思い知った。これは『騙されたり脅されてAVに出演しちゃう(簡易版)』シチュエーションだと。味方も最早いないなまえは項垂れ……そして、最後の抵抗に出るのだった。


「せめて売上の90%は私にください」
「結構欲張るのう」




2016.04.21

リクエストにお応えするのにこんなに時間がかかって申し訳ありません。
立海は絡ませると幸村くんの無敵ぶりが顕著で私もすがりついてしまいがちです。幸村様すごい。
これからもサティ本編で立海が絡んでくる!はず!なので、私もそうできるように頑張ります!
なみ様、リクエストありがとうございました!
また、大変遅れてしまって申し訳ありません。

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