「何してんねん」
「聞かないで……」
「あっそ。じゃあ聞かんわ」
「待て待て待てそこは『気になる』とか言って欲しいわ」
「聞くな言うたのみょうじやろ」

自分の赤い自転車の前でしゃがみこんでいた私に話しかけてきてくれたのは財前だった。よりにもよってコイツ、という言い方もできるかもしれない。それくらいコイツは薄情な男だ。

「で、何してんねん」
「チャリの鍵を無くした」
「はいバカ」
「ちょっ!君には親切心というものはないのか?」
「同情心なら持ち合わせてはいる」
「同情心あるなら『はいバカ』だけ言って立ち去ろうとはしないと思うぞ」

ほらきた。この財前光というのはこの通り薄情な男だ。私がこうして困ってるというのに全くもって助けようとしないのだ……ていうかそもそも私に『こんな時によりにもよってコイツが……』と思われている時点でどうかと思う。

「はぁ……今日は一旦帰ってスペアキー持ってくればええやろ」
「今日失くしたのはそのスペアキーというやつなんですねぇ……」
「何の罵詈雑言が欲しい?」
「私は罵詈雑言じゃなくて鍵が欲しいよ!」
「生憎俺からは鍵はあげられへんねん」

アホ、間抜け、と欲しくもない罵詈雑言を賜ってしまった。そもそも、こういう自転車の鍵を全部失くしてしまった時はどうすればいいのか分からないな。あと財前のコントロール方法も。

「財前、チャリキー全部失くした時どうすればいいか知らない?」
「俺はみょうじみたいに間抜けやないから知らんわ」

財前はイヤホンをつけてスマホをいじっている。
やっぱり他人事か!

「デスヨネーハイハイ。マヌケデワルウゴザンシター」
「めっちゃムカつくわ…………まあ、普通に考えて自転車屋に持っていけばええやろ」
「自転車屋か……」

この近くに自転車屋なんてあったっけ?頭の中のマップを広げてみる。思い浮かぶのは、ファーストフード店とか本屋とかCDショップとか、財前と行った所ばかりだ。今まで財前と自転車屋に行かなかったことが悔やまれるな。

「この近くに自転車屋ってあった?」
「ある」

そう言って私にスマホの画面を見せてきた。マップのチェックが指している場所は……あーそういえばあそこのコンビニの隣にあったな。

「はぁー分かった」
「感謝の言葉や謝礼は?」
「わーありがとう!」
「自分で調べれば……」
「グー○ルマップちゃん!」
「……」

コイツ……っていう表情はグー○ルマップに注視して視界に入りきらなかったことにして、意気揚々と前カゴに鞄を載せて自転車の支えを外して財前に別れを告げる。

「それじゃあ財前!さらば!」
「みょうじ」
「また明日にでも会おうぞ!」
「みょうじ」

ガッ……と乾いた悲しい音がして、自転車はその場から動かなかった。

私はもう一度自転車の支えをたてると、それから座り込んだ。

「そうだ鍵失くしたんだった……」
「呆れてかける言葉もないわ」

財前はこれみよがしにガチャガチャと自転車の鍵を外している。もう財前にあれこれと言われるのは嫌だからやり過ごしてから、これを自転車屋に持っていこう。そうしよう。すっごい恥ずかしいけど。

「みょうじ」
「財前が帰ってくれるの待ってます」
「は?薄情者かお前……ん」
「ん?」

私に持っていた荷物を渡す。つい受け取ってしまった。これをどうしろと言う。荷物持って自転車を担げというのかこの人。

「俺がそれ持って行くから。みょうじが俺の自転車引いて」
「え……」
「何ぼさっとしてんねん」
「あ、いや……その」
「さっさとしーや。鈍臭い」
「……」

慌てて追うことは出来ても恥ずかしくて口の方はつぐむことしかできない。喋ったら色々とぼろが出そうになってしまいそう。

「なあみょうじ」
「……何?」
「これ働いたら見返りくらいあるんやろな?」
「予算500円内ならば……」
「は?500円?」
「私のお財布は今氷河期なの……」
「別に500円なんか要らんわ……いっとくけど1000円も違うで」

あまりに興味がなさそうで吐き捨てるように言うから思わず1000円じゃないとダメなんか!?とか思っちゃったじゃないか!

「みょうじが俺のこと名前で呼んだらチャラにしたるわ」
「……回りくどいことしなくても言ってくれたら呼んであげるのに。彼氏なんだし」
「うるさい」
「はいはい、ありがとね。光」

財前……光はわざとらしいバレバレなため息をついた。

「モタモタしてると置いていくで、なまえ」



2016.04.21

リクエストにお応えするのにこんなに時間がかかって申し訳ありません。
今から2年前にチャリキーなくした私を助けてくれた友人を財前くんに置き換えました。ヒーローショーで中の人やってるムキムキ女子でした。かっこいい。
ツンデレ財前くんが大好きです。

あっこ様、リクエストありがとうございました。
また遅れてしまって大変申し訳ないです。

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