「国光」
「……」
「おーい国光くん」

生徒会室のデスクで黙々と業務をこなす国光を見ている。全く視線はかち合わない。無視か。
私への扱い、ちょっとぞんざいになってないかな?
確かめようにも今は周りには誰もいなかった。

「国光!」
「……」

手元の本じゃ私の退屈しのぎの相手にはならなかったから、国光に話しかけてるのに、国光に私の相手をする気は毛頭ないらしい。
やっぱり生徒会の業務を黙々とこなす国光。その仏頂面が面白くない。つまらない。

そりゃあ、国光はサボるということとは無縁の男である。なんたって、苦手なことは怠けること、サボタージュなど彼にとっては神話の用語に等しい。

だからといって、彼女を放置するのはやめてもらいたい。



「もーらいっ」

そう思ったら体が勝手に動き出して国光のメガネを奪ってた。メガネがなければ何も見えないでしょ!
けれども、国光は焦ることはしない。

「……何をする?」
「だって、私がいるのに全然構ってくれないから」
「お前はまたそんなことを……」

焦るどころか呆れている。
『彼氏が手塚っていうのも大変だねー』とか言うみんなの前では、私は極力良妻スマイルを崩さないようにしている。だからこそ、国光と二人きりの時はちょっとくらい息抜きさせて欲しいのに。仏頂面朴念仁の分からず屋め。

「あのね、国光くん。時には甘えさせてくれないと、私は逃げてっちゃうかもしれないぞ!」
「……」
「……今自分で言ってて気持ち悪かった、ごめん……」

これは呆れられても仕方ない気がする。
国光は私の目を見据えている。私が国光の生命線?ともいえるメガネを奪ったせいでちゃんと見えているのか怪しいのが、ちょっと悲しいけど。

「今の発言には少し動揺した」
「全然動揺してるように見えなかったけど」
「眼鏡を奪われているせいだ」

国光の表情筋はメガネがないと動かないの!?いや、眼鏡あっても動いてないけど!それと、意外にも国光が私の浮気発言に反応していた、っていうのが私には驚きだった。

「それに、別に呆れているわけじゃない」
「え……」
「なまえが……いや、やめておく」
「やめないでよ!気になる!気になるじゃん!」
「眼鏡を返してくれるなら、言ってもいい」
「本当に?」

私の頭上のメガネを国光にかけて戻してあげる。
国光から向けられるレンズ越しの視線は、私に近い気がして、いつも揺らめいていて……でも時間は止まってる感覚がする。

「俺の好きな本を読んでいたな」
「気付いてたの?」
「俺はいつでもお前を見ている。難しい顔をしていた」

机の上に放置した、国光の好きな本。私には難しすぎた。少しでも考えてることを理解したかったから読んでいた。私には国光がいるのに、本と向き合う必要なんか初めからなかったのだ。

「それと……『構ってくれ』なんて可愛いことを言うと思っていた」
「……それ言ってて、恥ずかしくなったりしない?」
「思っているが」
「だから全然顔に出てないってば」

寧ろちょっと笑顔になってるのは何で?
照れくさいとかそんな感じじゃない。本当に私のことを可愛いって思っている、そんな感じの笑顔だ。
そんな表情を見たら、本当に甘えたくなっちゃうじゃん。

「でも、メガネかけたら本当に表情復活してる」
「そうか」
「テニス部のみんなに見せたら一時騒然必須の顔をしてます」
「なら、なまえは……まだまだ構ってくれ、という顔をしている」

バレたか、と無意識に声が出たのを国光くんはバッチリ聞いてしまっていたらしい。
甘えさせてくれるように、ぎゅっと私を抱き締めてくれる。

「なまえをずっと見ていたから分かる」
「私だって知ってるよ」

ちょうどメガネを取った時には生徒会の仕事が実は終わったの。
耳元で国光がクスッと笑ったのが今度こそ分かった。




2016.04.21

リクエストにお応えするのにこんなに時間がかかって申し訳ありません。
私の中の手塚くんは真面目との相乗効果で天然アンド天然なイメージがあるせいでこんなになってしまいます。手塚くん大好きです。
そろそろサティでも手塚くんをいっぱい活躍させたいと思っているところです。手塚くん好きだー!!

咲様、リクエストありがとうございました!
遅れてしまって大変申し訳ないです。


[ ]