「は?」
「友達を呼び出すための儀式」

前から言動はおかしかったが、暗闇と能面が手伝ってホラー要素が多分に含まれるおかしいに入っている。要はこのみょうじ狂ってる。岳人は俺の背後で『いやケータイ使えよ……』と至極真っ当なツッコミを入れている。ってちゃっかり俺を盾にするな!

「結果三人も来てくれた」
「いや俺たち……」
「ジローちゃんの60円分のムースポッキーを回収しに来たんだっけ?」
「ああ!だから別にお前の謎儀式で呼び出されたわけじゃ」
「宍戸宍戸宍戸!」
「何だよ!」


振り向くとジローと岳人


「俺たちなまえちゃんにポッキー取りに来たなんて言ってないよ……」
「な、な!?」
「こいつ、本当になまえなのか怪しいぜ……」
「う……」
「おい盾なのに狼狽えるな!」
「後ろ!」
「後ろ?」

の後ろにみょうじが立っていた。
俺たちの喉からは悲鳴すらも出てこない。悲鳴すら喉に張り付いて尻込みしている。そしてやっぱり岳人とジローは俺を盾にする。俺だって隠れたいんだよ!

笑顔を崩さないみょうじはオレンジ色の安物鉛筆キャップを掌で弄ぶ。
ここまで来てこいつが人間じゃないと悟ったが、なぜかこいつはみょうじでないということだけは否定できなかった。こいつはみょうじで間違いない。人間じゃないけど。テレポートできるけど。


「夜の学校は楽しいよ。ここには何のしがらみもないから……3人もずっとここにいるといいよ」

こいつは親切心で言っているらしい。
その親切心から伸ばされた手が俺の腕を掴む。 


「私と一緒にね」


据わった目で俺を見つめるみょうじ。
その手は冷たさで俺の腕に貼りつくほどだ。


「ぎゃああああああ!」
「宍戸置いていくなぁあ!」
「待ってえええ!」

みょうじを振り払い俺たちは一目散に逃げ出した。正直宛もなく逃げているがあの人間じゃないらしいみょうじと一緒にいるよりマシだ。

「アイツ何なんだマジで!」
「いつの間にか俺たちの背後に!」
「手が、手が……すっげー冷たかった」
「ひいいいいそれ完全に生きてるやつじゃねーって!」

あの時のみょうじの顔が目に焼き付いて離れない。ヤバい意味で。
今も目の前にみょうじがいるようだ。暗闇の中に映える日に焼けてない肌に、いつもの制服を着て、やっぱりあの能面を引っさげて。

「……」
「……」
「……あれなまえちゃんじゃない?」
「言うな!」

未だかつてみょうじなまえの名を口にすることがこんなに恐ろしいことがあっただろうか。
俺たちが言い争いながら走っている間に現れたみょうじ。俺達との距離は10mもないくらい。
俺達が一歩後ずさると、みょうじは一歩前進する。
俯いていて表情は伺えない。

「……逃さない」

俺達は完全に逃げ場を失っている。走って逃げた所でみょうじの掌の上で弄ばれて、気が付かない内にみょうじの元へと戻ってきてしまうんだろう。

みょうじがまた一歩一歩近付いてくる。
顔をあげて、またあの据わった目で言うに違いない。『ずーっとここにいてね……』そんな類のことを。


「ゴーストバスターズ!……ってあれ?宍戸くん?がっくん?ジローちゃんも?」

何かよく分からん機械を背負ったみょうじがアホ面して近付いてくる。さっきのみょうじとうってかわって怪しい雰囲気こそない。が、やっぱり顔はみょうじなので恐怖で腰を抜かした。

「大丈夫?って何で手を振り払うの宍戸くん!」
「みょうじさん!勝手に飛び出して行かないでください……?先輩方、何腰抜かしてるんですか」
「……日吉だ」
「日吉だÇ」
「日吉いいい!」
「何なんですか鬱陶しい!」

みょうじの後から現れたのは懐中電灯を持った日吉だった。この時ばかりは日吉が仏に見えた。あとみょうじは幽霊にしか見えなかった。

「ちょっと何でみんな私を無視するの!」
「さ、さっき……教室でなまえちゃんに会ったんだ」
「え?何で?私は日吉くんとこのプロトンパック持って幽霊待ってたんだよ」
「ここで?ずっと?」
「ここで。ずっと」

やっぱり俺達が会ったのはみょうじじゃなかったらしい。日吉が目を輝かせて俺達に教室のみょうじのことを聞いてくる。もう思い出したくもないぜ。

「じゃあ俺達が遭遇したみょうじって……」
「みょうじさんの生霊とか」
「別に生霊になるほど暇してないもん」
「いやそんな胡散臭い機械背負って幽霊待ちしてる奴に言われてもな」
「これは胡散臭い機械じゃない!プロトンパックだぞ!跡部くんに貰った!」
「アンタ本当に使えると思ってたんですか」
「えええ跡部くんなら作れそうじゃん!」

アホなことを言っているこのみょうじからはばっちり生気を感じられる。

「あ」
「どうしたんですか?」
「教室のみょうじなまえって、生霊じゃなくてもう一人の私だったりしてね」
「ドッペルゲンガーですか」
「ありえる話かもよ。私が一人しかいないなんて誰も証明できないでしょ」
「まあ確かにそうですが」
「もう一人の私かぁ」

ニヤニヤと笑うみょうじは俺達を見ると、俺の手を掴んだ。



「私、怖かった?」



俺の隣で『この先一週間はなまえちゃんが怖いかも』と言うジローに俺も岳人も無言で頷いた。



2016.04.21

リクエストにお応えするのにこんなに時間がかかって申し訳ありません。
ホラー話ですが、やっぱりホラーは難しい!自分がホラーゲームとかは大好きなんですが小説と映像はてんでダメで……いつか長めのホラー小説を書いてみたいです。
ピアノは、最初はラヴェルにしていたんですがデータが飛んでしまいました……重ね重ね反省してます。
いつか短編の方でそちらも書き直してアップできたらと思います。

菖蒲日様、リクエストありがとうございました!
また、遅れてしまったこと、本当に申し訳ありません。

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