「あっくん、これなんてどう?」
「……」
「地球儀!」
「それを何に使うんだバカ」
「海外旅行のときに使う」
「使わねーよ。戻してこい」

地球儀は不評だった。多分お値段の割に使う機会が少ないからだな。どうせなら下に月もついてるやつにしとけば良かった。

「じゃあ次はこれはどうだ!」
「……」
「アイスノン!」
「てめーの頭を冷やしてろ」
「あっくん返しが上手いね」
「大喜利してるわけじゃねーんだ」

あっくんは不機嫌そうに別の所を見に行ってしまった。ヘーキヘーキ。あっくんはこう見えて気の良いモンブランヤンキーだから真に不機嫌になる時の方が少ない。不機嫌になるときは大概深夜のF1視聴を私に邪魔された時だ。因みにその時は腹いせに私の朝食のメロンパンを横取りする。

「やあなまえちゃん、奇遇だね」

次の品を物色していると背後から声をかけられた。この凛としつつもちょっとびくついちゃう声は間違いない。

「幸村くん!あれ、ブンちゃんもジャッカルくんも」
「ははは」

ははは、って。幸村くん全く笑ってないじゃん。出会い頭に不機嫌オーラをこちらに向けられても何も分からんよ私は!

「みょうじ……お前さぁ」
「何、ブンちゃん」
「彼氏いるならはっきりそう言えよ」
「まるで身に覚えがないぞ」

と言ったらブンちゃんえらく怒ってるんですけど。彼氏て……ブンちゃん私がウルトラマンを彼氏って言ったこと怒ってんのかな。ジャッカルくんに助けを求めると『これ以上波風を立てないでくれ!』と顔に書いてある。こっちは正直に言ってるつもりなのに……。

「なまえちゃん」
「うぉっ!」
「久し振りなまえちゃん。会いたかったで……」

またまた背後からびっくり飛び出て白石くんだ。あと謙也くん。二人とも家関西じゃなかったっけ?白石くんしかも借金取りみたいな顔してる。

「わ、私……交通費請求されても支払い能力ないよ?」
「愛への投資やから気にせんでええよ」
「うまく資産運用できるといいね……」
「みょうじ……彼氏いるならはっきりそう言うてくれた方が……」
「謙也くんは何言ってるのかな?」

さっきから身に覚えのないことで責められっぱなしだ。あと幸村くんの無言怖い。

「なまえさん」
「げぇっ!」

一言も発さない幸村くんと白石くんに怯えていたらまたも声をかけられて変な声が出た。私に声を掛けてきたのはあろうことか若くんとチョタくんだった。

「その反応……やっぱりそうなんですか?」
「うわぁぁやっぱりそうっていうのはよく分からないけど今の反応はつい!ついやっちゃったの!」
「言い訳はいいです」

そうは言われても自分では言い訳してるつもりゼロだよ。でもチョタくんはズルい……チョタくんが悲しそうな目で私を見るだけで罪悪感が湧き出てくるよ。

「コイツに何の用だ」

どうしようどうしようとあたふたしているとようやっとあっくんが戻ってきた。その手にはバケツプリン調理キットが!それ私もいいなと思ってた!

「あ、あっくん」
「用がないと話しかけちゃダメなのかい?」
「!?」

あっくんが今震えた。悪い意味で。幸村くんはそんなのものともせず煽りにきている。

「やめてやめて!うちのあっくんをそれ以上怒らせないで!」

みんなが『うちのあっくん……?』と声を揃えて怖い顔し始めるから思わずひっと声が出た。
ていうか何でみんなここにいるの?ここまで来たらまたあと一組来るんじゃないこれ?

「うちのあっくんだと?」
「あかん、こっちまでダメージ受けとる」
「あはは、案の定こうなったね」

ほら来た。私はもう驚かんよ。こっちとしても案の定跡部くん達がやってきた。それと不二くんは意味ありげに笑っているのが妙に愉快そうだ。

「……ていうかみんな何でいるの?」
「急に我に帰りましたね」
「それはなまえちゃんに関係ないことさ」
「なまえさんは知らなくていいです!」
「なまえちゃんは知らなくてええんやで」
「お前は知らなくていい」
「僕と手塚は面白そうだったから来たんだ」
「あ、そう……」
「宍戸……」
「ああジャッカル……あいつらなまえを一時的にでもストーカーしてたこと隠したがってるな」

手塚くん置いて帰れよ……ってちょっと思ってしまった。

「俺たちは亜久津に聞きたいんだ。なまえちゃんとはどういう関係なの?」
「はぁ?」

みんなに問い詰められて面倒で仕方がないのが顔に出てるあっくん。それから私の顔を見て……言った。

「ガキだ」
「は?」
「これやる」
「バケツプリンキットだー!」
「見ろ、ガキだろ?俺は保護者だ」

あっくんがバケツプリンキットをまさか私にくれるとは思わなかった!優紀ちゃんのプレゼント買いに来てまさか私が貰うなんてなぁ。

「本当だよね?」
「ああ……ったく変な奴ら連れて来やがって」
「本当なんですね?」
「マジだっつってんだろ」
「なまえちゃんを俺に下さい!」
「何なんだテメーは!?」
「手塚くんうちでバケツプリンやろう!」
「ふざけんな俺も食うんだよ!」
「亜久津も食べるんや……」

その後みんなに優紀ちゃんにプレゼントを買いに来たことを話したら、みんなの中でのあっくんの認識は変わったらしい。曰く、

『亜久津仁は母思いのバケツプリンヤンキー』。

うーん……やっぱりモンブランヤンキーの方がしっくり来ると思うんだけどな。


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