「あっくん遅いなぁ」

駅前の時計の下で幼なじみのあっくんが来るのを待っていた。約束の時間は16:00で既に20分をオーバーしている。連絡くらい寄越して欲しいな。もう暇を持て余すのも飽きた。暇で鳥の数を数えるの疲れた。鳥と間違えて空を飛んでるヘリコプターまで数えちゃうし。

「おいなまえ、何ボケーっとしてんだ」

20と数分遅れてやっとあっくんがやってきた。遅刻したきたくせに偉そうなあっくんを睨む。睨んでも特にお咎め無しなのが幼なじみの特権だろう。

「お、あっくん。何か私に言うべきことあるんじゃないかな?」
「口元にチョコついてんぞ。クレープでも食ったのか」
「えっ!?嘘っ」

謝罪の言葉じゃなくてチョコかい!でも私、チョコ付けたままアホ面して鳥なんて数えてたのか……めっちゃアホじゃん。しかも恥の上塗りで手鏡を持ってなくてあっくんに聞きながらソースの場所を探る。

「そこじゃねぇよ。ったく。食い意地ばっかり張りやがって……ここだここ」

結局あっくんが私の口元のチョコを拭ってくれた。それからそのチョコソースを舐めると、一言呟いた。

「一駅前の所のクレープだな」
「おー!すごいすごい当たってる!因みに何のクレープを購入したでしょうか!?」
「……ストロベリーティラミスクレープ」
「あーっ流石スイーツ系ヤンキー!一駅前のクレープ屋の一番人気も知っていた!しかし、この問題はさすがに難しかったでしょうか!?正解はチョコソースだけ入ったクレープでした!」
「んなモン当てられるわけねーだろうが!安上がりなモンで済ませやがって!チッ、茶番は終わりだ。さっさと行くぞ」
「ほいほーい」

先行するあっくんの後ろを私はついて行った。



街中で、自分の気になる女子がいたとする。
一人でベンチに座っていたら声を掛けようとする。少なくとも俺たちはそうしようとした。が、その女子の所に自分も知っている強面の不良が近付いてきてイチャラブしたかと思えばそのまま二人で人混みに消えて行ったとしよう。

さて、その後どうする?

「つけていくほかない」

幸村くんならそうすると思ってた。実際そうだった。俺だってみょうじと亜久津のことは気になるけど幸村くんの怖い顔見てたらそんなことも忘れちまうぜぃ。ジャッカルも焦ってる。

「いいのかよ幸村」
「まだ真田達と合流できてないぜ?」
「そんなの関係ないよ。今真田たちにはなまえちゃんをつけてくるって連絡入れたから」
「いつの間に……」
「あの二人のさっきのやりとりを見ながらだよ」
「……」
「さぁ、あの二人をつけよう」

幸村くんの出したスマホの画面にヒビが入ってたのは俺もジャッカルも見なかったことにした。幸村くんの頭の中では既に亜久津×みょうじの構図ができあがってしまってるらしい。でもみょうじは彼氏いなかっただろぃ。この前LINEじゃ嘘付きまくりだったな。『彼氏?いるよ!いるに決まってるじゃん!すらっと背が高くて強くて全体的に白とか銀色で……』……ってあれ?

「あれ?ジャッカルも行くんじゃないの?」
「ぼさっとすんなジャッカル!」
「ブン太!お前いつの間に乗り気に!」



街中で、結婚したいくらい好きな女子がいたとする。一人でベンチに座っていたら声を掛けようとする。少なくとも俺たちはそうしようとした。が、その女子の所に自分も知っている強面の不良が近付いてきてイチャラブしたかと思えばそのまま二人で人混みに消えて行ったとしよう。

さぁ、その後どうするんや?

「つけていくほかないやん?」

白石なら言うと思った。わざわざ東京に来て、みょうじを見かけて『マイスウィートなまえちゃんこれこそ運命や!』と近寄ろうとした白石に対して現実は厳しかった。

「せやけど残念やったな白石。あれは既に付き合うとる感じやったで」
「それはないわ。ちゅーか謙也、声震えとるで。ショック受けとんのちゃうか?」
「そそっそんなんちゃうわ!」
「わかりやすい反応やなぁ」

さて見失う前につけるで……とみょうじたちの後を追っていく白石。あんなラブラブシーン見せつけられて何で付き合うてないて自信あるんや。はぁー……ちゅーかみょうじ……亜久津と付き合うとるならそう言うてくれたらええのに。


街中で、自分で認めるのも悔しいが気になる先輩がいたとする。一人でベンチに座っていたら声を掛けようとする。少なくとも俺たちはそうしようとした。が、その先輩の所に自分も知っている強面の不良が近付いてきてイチャラブしたかと思えばそのまま二人で人混みに消えて行ったとしよう。

その後どうしようか?

「つけるぞ」
「うん、つけよう!」

俺と鳳はなまえさんの後をつけることに決めた。なまえさんと亜久津はどうやら幼馴染らしいというのを聞いたことがある。この際、はっきりさせようじゃないか。下剋上だ。この後の約束?そんなの知らない。跡部さんには何か言って取り繕っておこう。


「あーん?何だって……」
「どないしてん」
「日吉と鳳は遅刻するらしい。途中で妊婦を助けたとか何とか」
「長太郎だな」
「嘘っぽいけど鳳がいるんだからなぁ」
「ほんとー」

その跡部さん達は日吉と鳳からの連絡を受け取って駅前で立ち往生していた。

「む……氷帝か」
「やあ、こんなところでどうしたんだい?」

そこへやってきたのが手塚と不二だった。知り合いがいるから声を掛けることなんて当然のことである。

「あーん?手塚と不二じゃねーか」
「俺たちは日吉と鳳を待ってるんや」
「練習か何か?」
「おう、こっちは今日はオフだぜ」
「へー……みんなでオフか。それもいいね。うちもやろうよ、手塚。何ならなまえちゃんも誘ってさ」
「何でそこでなまえちゃんが入るの〜?」
「だってなまえちゃんがいると面白いことがありそうだと思わないかい?」
「まー俺たちもなまえを誘おうとしたんだけどアイツ来なくってさぁ……用事って言って」

不二は少し考えた後、口を開いた。隣にいる手塚は不二が何を言おうとしているか気付いて少し焦っているようだ。

「なまえちゃん、すぐそこで亜久津とデートしてたよ」
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