手塚くんは少し黙っていたけど、ようやく口を開いた。真田くんをしっかり見据えて、臨戦態勢に入った……そんな感じ。練習の時見た真剣そのものな手塚くんだ。

「……理屈はそうだが、それだけでは自分でも如何ともし難い思いもある」
「手塚……!?」
「俺が口出しするのに、みょうじさんが大切だからという理由だけでは不満か?」


「て、手塚があんなことを言うなんて……しかも私情で」
「て、手塚選手!まさに不意打ち!こんな奥の手を隠し持っていたとは!これにはなまえさんも……って痛いよぉなまえちゃん!」


こみ上げる恥ずかしさとか嬉しさとかで思いっきり菊丸くんの背中をバシバシ叩いてしまった。
私……今なら死んでもいい。この歓喜の震えが止まったと同時に息絶えても後悔しないわ。

「ハーッハッハッ!手塚ともあろう男が私情で物を語るとはな。いや……それでこそ対等にやり合えるというものだ!」
「俺はみょうじさんの怪我について一言言いたかっただけだ。何をやり合うつもりだ」

2人の会話がそろそろ不毛になってきたところで、大石くんに『試合中止!仲裁に入って!』のサインが入る。菊丸くんは『試合続行!実況を続けます!』のサインを出してる。菊丸くんは全力でこの状況を楽しんでるな。



「真田くん、手塚くん」
「む、みょうじか」
「みょうじさん」
「あの、なんか2人で色々揉めてたみたいだけど……」

頭で2人を仲裁する方策を練りながら話しかける。プロポーズは本当に嬉しいけど主に真田くんを止めなきゃ。

「真田くん、私の怪我大したことないし……体丈夫だし……軽トラに跳ねられても大丈夫だよ。こう見えて」
「いや!俺は責任を取る。これは譲らん」

いかん。最初にきちんと大石くんと菊丸くんと方策を練ってくるべきであった。

「け、結婚でしょ?結婚には、ほら……ね、確かな信頼関係とか愛情とかそういうものが伴うわけですよ。年月をかけてしっかり培っていくものが……そう、だからね。何ていうかな」
「つまり時間を置いてから考えた方が良いということか?」
「そうそう!真田くんにも好きな人ができたりして気持ちも変わるかもしんないしね!やっぱりこの人と結婚したかったとかなるかもしんないし!」

見事に見切り発車した所を手塚くんがレールを敷いてくれたおかげで何とかゴールにたどり着いた。真田くんは腕組みして考えてくれている。

「みょうじの言うことは一理ある。俺は性急すぎたかもしれんな。責任の取り方も色々ある。時間を置いて考えることとしよう」
「うん!」
「しかし、俺の心は変わらぬと思うが。
む……もうこんな時間か。俺はそろそろ練習に戻らねばな。みょうじ、仕事を頼んだ。手塚、迷惑をかけたな」
「いや、俺こそ呼び止めてしまってすまない」

心は変わらないって……。
色々聞きたかったことはあるのに、やっぱり恥ずかしくて聞けずじまいだ。多分この先も聞くことはできないだろうな。
色々期待してしまって、自惚れみたいで嫌になる。調子に乗るな自分!

「見かねて仲裁に来てくれたのだろう?すまなかったな」
「そんなことないよ!2人が怪我のこと心配してくれてたみたいで嬉しかったし」
「真田はああ言っていたが。困っていただろう」
「嬉しかったよ!真田くんは本気で考えてくれてたみたいだけど、やっぱりね」
「みょうじさんは……時間を置けば気持ちも変わる方か?」

手塚くんにこんなこと聞かれるのは初めてだ。いつもは音楽とか、そういう話ばかりだし。

「五分五分かな。そういうときと、そうじゃないときもある」
「真田は変わらないと言っていた」
「その時はその時だよ。その時の私の気持ちに従うだけかな。でも分かんないなぁ……どうなってるか」
「真田のことは分からないが……自分のことならば分かる」

青学のみんなは手塚くんは滅多に笑わないって言ってたけど、今の手塚くんは少し笑っているような気がする。

「俺のこの気持ちもきっと変わらない」


真田くんも、手塚くんも本当にずるい。


2015.12.05
このあと主に菊丸のせいで噂が瞬く間に広がります。
タイトルが非常に陳腐になってしまいました……!タイトルをつける能力欲しいです。
己の言ったことは曲げない真田と譲れない所がある手塚が好きなのでそれが多分に出てしまっていると思われます。もっと2人を出したいです^ ^

南様、リクエストありがとうございました!
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