視線の先で手塚くんと真田くんが睨み合っている。ヒュオオオ……とオノマトペを付けたくなる様子に、私はとりあえず物影に引っ込み、私をこの場に連れてきた二人に質問する。

「あの2人、なんで険悪ムードになってんの?」
「こっちが聞きたいの!」

菊丸くんに聞き返された。青学コートには2人の一触即発の雰囲気が漂っている。こっちが聞きたいとか言われてもそんな。

「あの2人はみょうじさんが原因で争っているみたいなんだけど……」
「私?何かした覚えはないよ」
「え〜?でもなまえちゃんがーなまえちゃんがーって怖い顔して言ってたよ」
「えええそんなの知らんし……」

私がもう一回様子を伺うとちょうど膠着したその場が動きだしたところだった。

「……みょうじさんは大事なコンクールを控えているのはお前も聞いているだろう」
「ああ、知っている。己の非は自覚している。ゆえに俺が責任を取ると言っているのだ」

「どういうこと?」
「ああ。もしかしてこのことかな?」

私は手首を見る。幸村くんがドアを粉砕して侵攻してきた時に、私と真田くんはベッドの下で攻防を致すことになってしまったのだ。その時に手首に痣ができてしまったわけだ。

「朝から真田くんとベッドで格闘してちょっとした怪我を」
「べ、ベッドで……?」
「格闘……?大人の?」
「ごめん今のは語弊しかなかった!」

今のは流れるようなコンビネーションだったよ青学黄金ペア(跡部配布資料より)。
なるほど、手塚くんは私の怪我を心配してたのか。今朝会った時聞かれたからなぁ。手塚くんに心配されるなんて嬉しいな。

「責任責任と言っているがどうするつもりなんだ」
「俺がみょうじを娶る!」

真田くんは腕組みしたまま堂々と答えた。
娶る娶る娶る……と頭の中でエコー処理がかかる。
あっと声を発したときには遅かった。案の定大石くんと菊丸くんから疑惑の目を向けられている。

「……」
「なまえちゃんやっぱり真田と……」
「違う違う違う違う違う違う!手首!怪我したの手首だから!」

真田くん何考えてるの!?幸村くんに手刀まで食らってまだそんなこと言ってるのか……!
恐る恐るもう一度確認すると真田くんはやっぱり威風堂々な態度を取っていらっしゃる。

「……」
「何だ」
「……勝手なことを言ってみょうじさんを困らせているのだろう」
「俺は本気だ」

手塚くんの方を向いているはずなのに、面と向かって言われているみたいで真剣な真田くんに思わずどきっとしてしまう。

「赤コーナー真田選手のストレートな言葉だ!本気の中に実直さを感じさせます!実況席のなまえさん!この真田選手の攻撃はどうでしょーか!?」
「ど、ドキドキします!武士に目覚めそうです!」
「真田選手は実況席にもインパクトを与えたようです!」
「君たちのノリすごいね……」


「みょうじのことは本気で考えている。みょうじにもそれは伝わっているはずだ」

まさに謹厳実直たる武士だ。冗談だと思ってたのに、今更こんなに本気だと言われると嘘だと思えないし、そもそも軽傷でここまでしようとする真田くんには感服だ。

「手塚選手は対する真田選手に押されて言葉もでない!」
「英二!手塚の実況じゃなくて応援をしなくちゃダメだぞ!」
「真田くんかっこいいなぁ……」
「審判のなまえちゃんにも真田のストレートなプロポーズにノックアウト寸前だ!どうする手塚!?」

「それに、手塚といえどもこの件には口出しする権利はなかろう」

「おーっと!ここで真田が追い討ちをかける!『俺となまえの間のことはお前には関係ない!』となまえさんとの関係をアピールしていますっ!実の所どうなんでしょうなまえさん!?真田選手とはどういう関係なんでしょうか?」
「別に男女の仲でもないですけど真田くんとそういう関係になっても良いなって思います……!」
「これは前向き!前向きな発言だ!ますます不利になってきた手塚選手!どう対抗するつもりなんでしょうか!」
「手塚……このままじゃ……」

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