「お邪魔してまーす!」
「散らかすなよ」
「散らかすわけなかたい」
「……」
「どぎゃんしたと跡部くん?樺地くんも?」

部室で出会ったみょうじはますます宇宙人になっていた。

「ふぁあ……あ!なまえちゃーん!遊びに来てたの!?」
「ばっ!たいが重か!ジローちゃんうちの関節がミシミシいいよるたい!大天使ジローと言っとっても……うう」
「タイガー?」

跡部にもばっちりタイガーと聞こえた。
そういえばみょうじは確か熊本出身だったなと思い出す。向日は怒ったときや感情が高ぶったときに熊本弁が出てくると証言していたし実際少し前に跡部に熊本弁で怒ったこともあった。

「みょうじ、訛りがすごいぞ」
「あっ、そっかそっか。ばあちゃんが来とらしたけん訛りが戻っとっとよ〜。いつもは気をつけとっとばってんやっぱり戻るとたいねー。しばらく我慢して欲しか〜」
「……」
「昨日までばあちゃんが来てたから訛りが全開らしいぜ。クラスでもずっとこんなだった」

いつもは標準語のなまえも、こうなると跡部には別世界の人間に思えてくる。ドイツ語や英語の方が簡単……と跡部は思っていた。関西弁は比較的有名であるし、テニス部の関係者で熊本弁を話せるのは四天宝寺の千歳と不動峰の橘くらいだ。

「なまえちゃん方言かわE〜」
「ほんと?ジローちゃんが言うなら私ずっと熊本弁喋っても良か気がするばい!」
「……」
「跡部くんそぎゃんびっくりしたとね?」

忍足が言っていた。この世には方言女子というジャンルがあると。
それなら方言奇行種も悪くない気もしてくる。寧ろ少し可愛いかもしれない……と跡部は思った。
……まあなまえはそもそもの行動を矯正しないとダメだ、と日頃の行いを鑑みてそんな気持ちは霧散した。

「訛りのあるなまえさんも可愛いなぁ……」

なまえの欠点らしい欠点が欠点に見えない鳳には効果は抜群である。

「その他の要素で台無しだろ……」
「奇遇だな。俺様もそう思う」

跡部と日吉が方言なまえを残念そうに見ていると、ドアから興奮気味の忍足とそんな忍足に呆れている様子の向日が入ってきた。

「おっ、なまえちゃんおったおった。岳人から聞いたで。今日は熊本弁やって」
「おいふざけんなよ!侑士にばらしたって俺が怒られるだろ!」
「もう遅かよがっくん。怒るに決まっとるたい。ばってんそれ以外にも話はあるけん」
「はっ!なまえちゃん……」

方言女子支持者の忍足は訛り全開のなまえを見て、『かわええなぁ……』と嘆息を漏らした。それがあまりにぞわりとさせるものだからなまえは日吉と鳳の後ろにさっと隠れた。忍足以外全員がなまえを守る態勢に入った。

「侑士今のはないわ」
「リアルだC」
「忍足先輩……」
「先輩……」
「変態……」
「誰やねん今どさくさに紛れて変態言うたんは」
「いかん……忍足くんの前で簡単に口ばきけん……」
「なまえちゃん何やて?」
「!?忍足くんのそぎゃん食えんとこ好かんばい!」
「好かんって言われてこんなに嬉しいことないわ」

理解しかねる性癖と鋼の精神を持つ忍足は最強なのかもしれない。
なまえは忍足を伺いつつ、それ以上に入ってきた向日を睨む。

「忍足くんのことよりうちはがっくんに言いたかことがあるとばってん」
「俺が何かしたっていうのかよ!?」
「したよ!ほんなこつ重大なことば……
うちのおっとっとばとっといてって言っとったとに何でとっとかんかったと!?」

は?と全員が返すのでなまえはまた『おっとっととっといてって言っとったとに何でとっとかんかったとって言っとっと!』となまえは返してくる。『とっと』が一セット増量しただけだった。

「みょうじさんと意思疎通がここまで取れないのは久々だ……」
「ちなみに前は?」
「先月ここで謎のブラックボックスを作成しながら『パッとしてドーンってなってキュルルルルパーンドスッザクッとしてゴン!パタッ!ちーん』とか言ってました」
「最後死んでないかそれ?」
「一体どこで切るんでしょうか?」

この中では比較的付き合いの長い日吉と鳳ですら首を傾げている。向日など尚更である。

「なまえ、もう一回」
「もー!おっとっととっといてって言っとったとに何でとっとかんかったとって言っとっとよ!何で分からんとね!」
「この俺様のインサイトをもってしても文の切り目が見えないだと……!」
「ウ、ウス」
「それインサイト関係なくないか?」
「んー」
「どうしたんだよ忍足」

忍足に警戒心丸出しのなまえは少し考えた後口を開く。

「おっとっととっといてって言っとったとに何でとっとかんかったとって言っとっと」
「あー確かに岳人が腹減ったゆーて食べとったわ。ほら、岳人。なまえちゃんに謝り」
「!?侑士分かるのか!?」
「まぁな。同じ西日本やし?」
「はー!今初めて忍足くんのこと見直したばい!」
「惚れてもええんやで?」
「それはなか」
「おい!みょうじは何て言ってるんだ」
「それはなあ……」

忍足の表情は優越感を滲ませている。ちょっとイラっとするがここは同じ西日本出身に解説をお願いすることにした。

「『おっとっとを取っておいてと言っておいたのに何で取っておかなかったのって言ってるの』っちゅー意味や」
「そうそうすごかね!それでがっくんにはうちに謝ってほしか……ってみんなどぎゃんしたと?」
「アーン!?何で方言しか喋れなくなってんだよ!極端すぎるんだよお前は!」
「何でみんな疲れた顔しとらすと?」
「シトラス?シトラスミントかよ……」
「まあまあ。みんな方言女子の良さに身悶えとるねん……多分」

タイガーにおっとっと増量中に最後にはシトラスミント……早くそこそこ標準語を話せるように戻って欲しかったがなまえがやや標準語を取り戻したのは1週間後くらいであった。


2016/09/18修正
宍戸ジロー岳人の幼馴染3人組とテスト勉強できたら楽しいだろうなぁという願望を詰めました!方言の方ではバイト先の先輩が2ヶ月くらいずっと面白がっていたおっとっとネタです!
熊本弁書いてると恥ずかしくなりますね……自分も結構訛りが酷い方なので笑
こう様!リクエストありがとうございました!

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