テスト期間。
それは一番勉強しなければならない期間なのに最も誘惑の多い期間であるという矛盾を孕んでいる。

飽きていたゲームをしたくなる。
とりだめしていたアニメを観たくなる。
そんな時にがっくんから一本の電話がかかってきた。
テスト勉強が手につかなくなったがっくんに巻き込まれてゲーセンにでも行っちゃうんだろうなと思いきや、がっくんからの電話は『一緒にテスト勉強しようぜ』というものだった。
がっくんにしては建設的な意見である。
集合場所は私の家、集まったのは宍戸くんとジローちゃん、そして発案者のがっくんである。
私たちはテーブルについて、テキストやプリントを広げる。

「なまえは?」
「私は英語と歴史と音楽が……国語もまぁ。理系は聞かないで」
「俺は化学と英語」
「地理と歴史」
「俺体育〜」

やばい……そもそものメンツを間違えた感がある。
それぞれ
私は音楽と国語、がっくんは化学、宍戸くんは地理と……ジローちゃんはもはや寝るだけのマスコットと化してるし!
特に理系科目の補強が間に合わない。例え跡部くんに多少教わっていたとしても間に合わない。

「ぐー」
「ジ、ジローちゃん寝てる場合じゃないよ!一緒に高等部に上がるって約束したじゃん!!」
「なまえちゃんのベッド借りてE〜?」
「ベッドに落ちるそれすなわちテストに落ちるんだよ!」

3人ですでに私の抱き枕を持って就寝体勢に入ったジローちゃんを何とか揺り起こして勉強に取りかかる。1分1秒すらも惜しい……!1週間前ギリギリテスト勉強に手をつける非計画勢には氷帝教師陣は優しくないのだ!


「……なぁ、このプリントの(2)何て書いた?」
「どのプリント?」

質問したりしながら珍しく真面目に勉強していると、がっくんが国語のプリントを出した。(2)は作文だ。作文……そんなこと質問せんでもいいだろうに。

「こんなの自分で考えればいいじゃん」
「うるせー!何も思い浮かばねーんだよ。宍戸の見せろよ」
「はぁ?俺のかよ。別にいいけどよ」
「どれどれ……」

(2) 『常識』についてあなたの経験や知識を挙げて自分の意見を述べなさい。

「『常識は守らなければならないものだが、とらわれ過ぎは良くない。私の友人に……』」
「ぎゃははは!私!宍戸くんが私!」
「似合わないCー!」
「うるせーよ!普通そう書くだろうが!」
「ひーっ!後で写メ!写メらなければ」
「絶対やらせねーよ!」
「『私の友人にクリエイティブな発想を以って何事も取り組む女子がいる。彼女には社会的通念……いわゆる常識というものが通年しない。先日は持ち物検査の日に大量のジグソーパズルを持ち込んでいた。その日はたまたま反省文を書かされずに済んだが、彼女の教育機関への斬新な反抗には感服せざるを得ない。このような常識への対抗姿勢は大いに見習わなければならないわけではなく色々考えた結果やはり私は常識は守らなければならないと思った』……おい最初と最後で結論が違うじゃねーか!」
「いや、色々考えた結果だから」
「書き直せよ!」

がっくんはビシッと机に宍戸くんの作文を叩きつけた。最後まで読んだがっくん、ちょっと可哀想かもしれない。
次にがっくんは私の方へ手を差し出してくる。私の作文を要求しているようだ。

「なまえは国語得意って言ってたからな」
「大丈夫なのか?俺の作文の社会通念クラッシャーはみょうじのことだぞ」
「えっ嘘!?」
「やっぱりなまえちゃんだC」
「ジグソーパズルだよジグソーパズル!※本編19話参照って付けてなくちゃ分かんねーのか!?」
「メタい!メタいよ!」
「えーと、なまえのは……」

ふふん、今に見てなさい!社会通念クラッシャーなどには真似できない圧倒的記述力と説得力を!

「『例えばドラえもんが派遣された先がのび太ではなくジャイアンだったとします。ジャイアンの話ならのび太のそれとまた味の違う面白い話になるでしょう。なぜならのび太とジャイアンは大長編・映画補正、仲間思い、成績不振という点で似通っており十分主人公になる要素があるからです。一方で、しずかちゃんや出来杉だったらどうでしょう?ひみつ道具を賢明に有効的に使い、トラブル一つない日々……こんなのドラえもんになるわけがないでしょう。常識とはつまりそういうことです』……」
「全然分かんねーよ!」
「うわぁぁぁぁぁぁ」

がっくんと宍戸くんが仲良く二人で私のプリントを引き裂いた。何で引き裂いたんだ。何で二人でやったんだ。そんなことより私の大切なプリントが!

「ひどい、ひどすぎる」
「なまえちゃん、結局何が言いたかったの〜?」
「常識にとらわれ過ぎてはいけない……でもあくまで常識ではなく良識の範囲内で行動すべきだってこと……。ジャイアンはまだしも出木杉やしずかちゃん宅のドラえもんなんてドラえもんらしくないし……」
「結論は当たり障りないのに具体例が当たり障りがあるんだよ、お前のはよ……」
「クソ!何でスネ夫をはぶるんだよ!」
「そこ!?」
[ ]