活動が始まって1週間。早くも活動は行き詰まりを見せていた。というのも、なまえが鋭い勘を働かせて3人が自分を見ていることに気がつき始めたのである。
ある時の日吉は右斜め後ろを気づかれないように歩き、遠目に見ていたはずなのにくるりと後ろを振り向いて『さっきからどうしたの?』と無邪気に聞かれて本当に肝を冷やした。
そんなやたら鋭いなまえに、日吉は『こういうときばかり勘を働かせて……野生動物か』と内心悪態付き、鳳は『普段は俺の気持ちに気付いてくれないのになぁ』という思いを燻らせていた。

それともっと厄介なことがあった。

「なまえさんの前髪、鉄壁だ……」
「ウス」

なまえのあの邪魔そうな前髪は微動だにしない。走ろうがジャンプしようが何しようが全く動かないのだ。
業を煮やした日吉が扇風機を当てても動かなかった。それどころかなまえが宇宙人の真似とかいう煽りとしか思えない行為をしてますます腹が立っただけ。
鳳の隣で突風に吹かれても、樺地の目の前で暴風が直撃したのにも関わらず前髪はそのままだった。なまえの後ろで、かみはかみでも紙だけが暴風を受けて宙をを舞っていた。

「スカートが風に捲られてたのに前髪は無事だったんだ。女子のスカートは鉄壁とか言っていた忍足さんのことをもう一生信じられないよ」
「……」

忍足さんのことそんなに信じられなくなるくらいショックなのか?と樺地は思った。

「別の作戦を考えるしかないな。風がダメなら俺たちの手で直接掻き分けるしかない」
「ええ!?そんなことできるわけないだろ!?日吉できるの!?」
「俺だってできないに決まっている」
「そ、そうだよね。これでできるって言ってたら俺、日吉のことどうにかしてたよ」
「おい!しれっと怖いことを言うな」
「……ば」
「どうした樺地?」
「……みょうじさん……に……見せて……もらえ……ば」
「却下だ。敗北を意味する」

樺地の一番現実的な案は却下になった。なまえの前髪の下を意地でも自分たちの力だけで見る!と日吉の中では最早過熱した戦争状態である。こうなった日吉はもう止められないと樺地や鳳もよく知っている。

「幸いみょうじさんは部室で無防備に寝ていることが多い。そこを狙おう」
「分かった」
「……ウス」

その日の夜、真面目すぎる3人は
『なまえさんの前髪の下の真実を求めて……!』とグループの標語を改めて決めた。



宍戸からなまえが呑気に部室で寝ていると情報を得た3人は部室のドアの前に立っていた。ドアの向こうから物音などはしない。なまえは一人で寝ているようだ。

「なんか最初からそうしておけば良かった気がする」
「ウス」
「それは言うな。まず、俺が様子を確認する」

日吉がゆっくりドアを開けて隙間から部屋を覗く。しかし、かなり驚いたような顔になって、次に苛立った様子でそれを隠そうともしない。

「ど、どうしたの?」
「ちっ、厄介だな」

3人が部室に入ると、やはりなまえは寝ていた。そのまま前髪を暴く……というわけにはいかない。なまえは気付いていないはずだが、まるでこの事態を予測していたみたいだ。

「コイツ、今日に限ってアイマスクをしている」

やたら不気味なアイマスクをして寝ていた。アイマスクの所為でまるでエイリアンだ。
ご丁寧に前髪を払わずいつもの邪魔前髪の上からアイマスクをしている。

「まずアイマスクを取らないとね……」
「起こさないようにしろよ」
「分かってるよ」

鳳が先陣を切ってアイマスクを取ろうと手を伸ばす。が、鳳はアイマスクに手を触れる前に止まってしまった。日吉と樺地は鳳の様子を伺う。

「鳳……!?」
「な、なんか……急に照れるっていうか、背徳感というか、その……」

何だ青臭い反応は!服脱がすみたいに言うな!アイマスクだぞ!と日吉は心中でつっこんだ。多分表情に出ていたのか鳳は申し訳なさそうにしている。仕方ない、と次に日吉が手を伸ばす。

ガッ
「放せええええ!」

つい声を出しそうになるものの何とか黙った。あろうことか伸びてきた手をなまえは正確にがっちり掴んでいた。寝言は『放せ』と言っているが。

「うーん、立てよ国民!今こそ……んん……」
「ちっ、びくともしな……」
「きのこの山を処刑する時だーッ!!」
「なるほどなまえさんはたけのこの里が好きなんだ」
「納得してる場合か!樺地!後は頼むぞ!」
「!?」
「お前しかいないだろ」

日吉に言われて樺地はなまえのアイマスクに手を伸ばした。今度はなまえも寝息を立てていて起きる気配はない。
行けると思ったその矢先だ。

「お水」

水を求めて起き出した。流石の樺地も驚いたようだ。なまえは3人の存在に気付いてないらしい。そもそもアイマスクをしているから完全に起きたのかも分からない。それからテーブルの上のペットボトルを迷いなく取ると器用にキャップを外して飲みだす様子はまるで目が見えているようだ。

「日吉!手が解放されてる」
「ああ。この人超音波でも出しているのか」

ペットボトルを豪快に飲み干すとペットボトルをゴミ箱に放り投げる。ペットボトルが華麗にゴミ箱に入り、3人はそれを唖然として見ていた。

「ねむねむ……」
「寝た!?しかも次はうつ伏せ!」
「くそ!こいつ本当は起きてるんじゃないのか!?」
「うーん……」

躍起になる3人と完全に無意識下のなまえは壮絶な攻防を繰り広げたのだった。



「ふぁあ……よく寝た!……何してるの?」

アイマスクを取ると日吉くんと樺地くんとチョタくんがえらく疲れた顔をして床に力なく座っていた。

「やっと起きたか……」
「なまえさん……すみません」
「……ウス」
「三者三様の反応で何が起きたのか理解できないんだけど」
「みょうじさんの前髪の下を見る為に時間と労力を割いてたんです」

3人の話を聞くと、どうやらここ最近私の前髪の下を見る為に躍起になっていたらしい。そういえば3人に見つめられてるなって気になってたんだっけ。先週の台風来たくらいから忘れてた。

「なまえさん、うつ伏せになっちゃうし……」
「ウス」
「起こそうと必死になっていたらスカートがめくれてそっちを直すのに必死になってしまいましたよ」
「えっ!?見ちゃったの!?後で感想聞かせてね」
「感想!?」
「感想を何故求める!?」
「冗談ですぅー」
「はぁ。もうこちらの完敗で良いです。その前髪の下見せてくれます?」
「なげやりだなあ。まあ私はかまわんよ。はい」
「待って下さい!まだ心の準備がっ」
「あ、ごめん」

すぐに前髪を掻き上げてしまったからチョタくんと樺地くんに心の準備をさせてあげられなかった。

「でも別に心の準備するほど大したものでもないし、3人とも何だと思ってたの?」
「オッドアイです」
「何その設定」
「……」
「……」
「……」
「お、おーい?」

3人に前髪の下を見せたら見せたで一切動かなくなった。声をかけても反応しない。そんなにオッドアイじゃないの残念だったかな?

「オッドアイじゃなくてごめん」
「……なんで」
「ん?」
「なんで勿体ぶらなかったんだ!」
「ええええ日吉くん見せてって言ったじゃん」

これなら本当にカラコン入れとけばよかった……。



「長太郎の奴がなまえの前髪の下を見たって言うからどうなってるか聞いたら『口が裂けても言えません!』ってすごい剣幕で言うんだぜ」
「なまえちゃんの前髪の下かー」
「日吉も似たようなこと言ってた。やっぱ噂はマジなのか?」
「噂?」
「なまえは実は一つ目とか、第三の目があの下にあるとか」
「いや、普通は一つ目にしろ第三の目にしろ、真ん中に寄らねーか?アンバランスだろ」
「嘘だぁー」
「じゃあお前らはどう思うんだよ」
「オッドアイ」
「オッドアイ」
「かっけーな!じゃあ確かめてみようぜ」

「はっくしょん!……うーん誰か噂してる ?」

2016/09/18修正
氷帝の2年生はみんな性格のバランスが取れていてまるで天国ですね……いや……テニプリはどこも天国ですけど……。ちなみにこのお話を書いた後3人とファミレスに行く夢を見ました!チョタくんが好奇心でメニュー決めてないのに呼び鈴鳴らして焦ってました笑

やね様、リクエストありがとうございました!

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