「今朝来たらこの有様です」

永四郎が指差す方向。その先には永四郎が栽培するゴーヤーがあるはずだった……のだが。

「俺の栽培していたゴーヤーが何者かの手によってイチゴに変えられていました。誰の仕業か今正直に白状すれば許してさし上げます」
「ぷっ」
「何ですか甲斐くん」
「だってでーじ永四郎には似合わんさー!」
「ゴーヤー食わすよ」
「イチゴ食わすよのいいまちげーさ」
「それ!凛くんそれよ!ぎゃははははは!」
「みょうじさん海に沈めますよ」
「永四郎が言うとリアル……」

緑の苦々しい野菜は今や赤の甘酸っぱい果物に変わっていた。永四郎の大事に育てたゴーヤーはどこに……それは犯人である私しか知らないことだ。

「容疑者はみょうじさんに平古場くん、甲斐くん、田仁志くんの誰かだと思います」
「はいはい!何でテニス部とは関わりのない私まで容疑者なんですか!?」
「知念くんにつきまとってるからです」
「え、その理由おかしくない?」

私が寛くんにつきまとってるって語弊だよ、ただの幼なじみだからだよ。それで私が疑われてるのおかしいのでは?犯人は私だけど。

「寛くん助けて!私疑われてる!」
「わんもなまえが怪しいと思ってるんばぁよ」
「え」
「イチゴまーさん!」
「田仁志くん、どんどんどうぞ。イチゴを駆逐してしまいなさい。
まあどう考えてもみょうじさんが怪しいですよね」

マイフェアリー寛くんが珍しく私を擁護してくれない。私はもう一人の幼なじみである凛に助けを求める。

「凛……」
「わんにすがられてもなぁ」
「ゆうちゃん……」
「気にさんけー!わんもやーがイチゴにすりかえたと思ってるさぁ」
「爽やかな笑顔で気にさんけー!とか言ってんじゃないわよ!」

四面楚歌じゃん……。私は恐る恐る永四郎を見ると、永四郎はイチゴをもぎ取り田仁志くんに食べさせている。まるで飼育員だ。
にしても私はどんだけ信用されてないんだ。

「それで、貴女は昨日の夕方どこで何をしていましたか?」
「部室でIt観てました」
「何ばぁその映画?」
「ピエロがめっちゃ怖い映画」
「しにうとぅるさん映画ばぁ……」
「裕ちゃんも一緒にちょっと観た。あれ以来立派なピエロ恐怖症になったね!」
「やー部員やあらんどーや……部室でホラー映画観るとか」
「そうですな」
「やしが、途中なまえいねーんなったさぁ」

裕ちゃんの証言により私の立場がますます危うくなる。裕ちゃんまでもが私を疑ってる。まさか貴方に疑いの目で見られる日が来ようとは。

「私は清廉潔白よ!見てよこの澄んだ瞳を……!」
「ほう」

永四郎は眼鏡を掛け直した。逆光で表情が伺えない。

「胸に手を当てて考えてみなさい」
「うん」
「何カップ?」
「D……っておい凛!」
「でーじまぎーさぁ」
「盛ってるばぁ」
「そこ!何をこそこそしている!」
「貴女の胸など興味ないです」
「それはそれで傷付くよ」
「次に目を閉じて」

永四郎に言われて渋々目を閉じる。

「この前部室に何をしましたか?」
「みんながいない間にアースレッドWを仕掛けました」
「試合を収めたDVDの空きに何をしましたか?」
「ジョーズをタビングしました」
「あれのせいで全員1週間も海に入れませんでした」
「永四郎も入れなかったの?」
「……それはいいとして、部室のパソコンのデスクトップを何にしましたか?」
「早乙女先生」
「ゴーヤーよりしにきつかったさぁ」
「そして挙げ句の果てに俺のゴーヤーに何をしましたか」
「イチゴのプランターと入れ替えしました」

私はハッとなって口元を抑えるもののもう遅い。永四郎が私を見下ろす。私は取り敢えず体育座りから正座をして誠意を見せることにした。

「やはり貴女でしたか」
「……」
「わじられるの分かってやったばぁ?」

凛がため息を吐きながら言う。そうだよ、それでも……。

「分かってたんだけど……でも」
「やしが?」
「永四郎はいつもゴーヤーゴーヤーばっかり!私のことを見てくれないんだもん!」
「!?」
「田仁志がイチゴかむんやめた!?」
「永四郎!どういうことさぁ!?」

みんなが永四郎に詰め寄る。永四郎は仕方ないと言わんばかりにため息を吐くと口を開いた。

「俺とみょうじさんは3ヶ月前から交際しています」
「か、会見さぁ!」
「RBCで放送ばぁ!」
「琉球朝日放送なら間違いあらんど!」
「何を騒いでいるんですか貴方達は……。
全く、みょうじさん。仕方のない人ですね」

ティッシュを渡されて涙を拭く。ほんと、仕方ない。ゴーヤーに嫉妬するくらい永四郎がすごく好きなんだから。

「私とゴーヤー、どっちが大事?」
「馬鹿なことを……貴女に決まっているでしょう」
「永四郎……!ごめんね!大好き!」
「ヒューヒュー!」
「なまえと永四郎がお付き合いかぁ……」
「知念、いちなまえのおとーに?」

みんなに拍手喝采を受け祝福された。
これからゴーヤーにジェラシーを感じることなんてない!だって永四郎の一番は私なんだもの!

「それで、ゴーヤーはどこに行ったんですか?」
「あ、えーと……」
「ぬーんち口ごもってるさー?」
「いや、あのね……」

それは、昨日のこと。
でっかいプランターを体育館裏に運び終わり、にっくきゴーヤーを見ていたときだった。
よくよく考えてみれば、このゴーヤー。あの永四郎が手塩にかけて育てたゴーヤーなのだ。
永四郎……ゴーヤー……永四郎……ゴーヤー……。


「永四郎が育てたって聞いて、その、食べちゃったんだ」
「なまえ、やーさんだけばぁ」
「田仁志に言われちゃあなぁ」

この後永四郎に食べたゴーヤーの分だけテニス部で働かされた。


2015.11.19

比嘉中書けたー!!
自分がバリバリの熊本弁なので沖縄弁は新鮮です。比嘉中といえば田仁志くん……お腹ぽよんぽよんしたい!比嘉中のみんなは可愛いですね!いつか本編にも出したいです。
日吉くんの方はまた本編でも色々……やれるといいなあ日吉くん好きだなぁ。

けう様、リクエストありがとうございました!

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