それは俺がレギュラーの更衣室に入ったときのこと。

「う……ぐすっ、ひっく」
「(ちょっ、ええええええ)」


中では女子が泣いてた。
回転椅子に座って回りながら泣いてる。

「びええええええん!!!」
「(なんて泣き方するんだ……)」
「えええええ、うっ、ぐすっ」

女子……この人確か最近レギュラーと仲が良いみょうじなまえとかいう変な先輩だ。泣きながらめいいっぱい回転している。

「ど、どうしたんですか……」
「ひぐっ、びええええええ」
「泣くだけじゃ分かんないっすよ」
「うるせえええ私のツインテールを返せやぁぁ!」
「理不尽!」

椅子の回転も合間ってかみょうじ先輩の右ストレートは結構痛かった。
つーかツインテールって何で?ぐるぐる回転する変人にどうしたものかと困惑していると部室に勢い良く入ってきたのは宍戸先輩と鳳だった。




「……何だよ、煩い泣き声だと思ったらみょうじじゃねーか。脅かすなよ。あと後輩困らせんな」
「なまえさん!そ、そんなに泣いて回ってどうしたんですか」
「うぇぇぇ……気持ち悪っ」
「回転するから気持ち悪くなるんだよ!激ダサだぜ。ったく」

宍戸先輩は同じクラスだというし、鳳はその前からみょうじ先輩と知り合いだというからかなり扱いに慣れてる。2人は回転椅子からみょうじ先輩を引き離すとソファに座らせ背中をさすっている。宍戸先輩は俺を気遣ってくれた。同じ先輩でもこうも格が違うとは。

「何があったんですか?俺がなまえさんの力になります!」
「チョタきゅん……」
「俺だってそうだぜ」
「宍戸錠……」
「別人じゃねーか」
「わ、私のツインテールエビフライが昼寝してる間に食べられてしまった!」
「何ですか?そのツインテールエビフライって?」
「超大きいエビフライ」
「そんなもんどっから持ち出したんだよ」
「家庭科部の友人がくれた。誰だ!?私のツインテールエビフライ食ったグドンは!」
「分かりにくいネタはやめろ」

つまり先輩は自分の弁当が食べられてしまったことに腹を立てているようだ。確かに目も泣き腫らした、というより血走ってるという方が正しい。食った人をタダでは済まさない気だ。

「おい宍戸、鳳!」
「中に何かいたか!?」
「あ、跡部さん達のことすっかり忘れてました」

鳳が部室のドアを開けるとぞろぞろとレギュラー陣が入ってきて俺とみょうじ先輩を見やる。うわ、すげー迫力。

「何ですぐ入ってこなかったの跡部くん」
「当たり前だろ。部室から不審者の気配がしたからな……そしたらみょうじじゃねーの」
「その場でじゃんけんして負けた宍戸と鳳かに先陣切らせたんや」
「不審者……」

不審者は俺ではなくみょうじだと日吉がカバーしてくる。こいつ、見た目と態度はあれだけど根は良いやつなんだよな。

「で、お前はテニス部の部室で何してたんだ?そしてなぜ泣いてたんだ?」
「忍足くん待ち。艦これ談義のために。で、昼寝して起きたらエビフライがなくなってた」
「俺知らないぞ!」
「まさかあの巨大エビフライか……」
「日吉知ってるの?」
「食べさせられたことがある。あんなもの好き好んで食べる奴はいないでしょう」
「いーなー!俺も食べてみたいC!」
「じゃあ誘った忍足が怪しいわけだな」
「俺はなまえちゃんと違うてフードファイターやない」
「フードファイター!?」

楽しそうにからかう忍足先輩と、もともと不機嫌だったのが輪をかけて不機嫌になったみょうじ先輩。
再び『ツインテールエビフライー!』と回転椅子に飛び乗ってグルグル回る。
だから何で回るんだよ!

「仕方ねぇ。部室で起こったことだ。責任を取ってやるよ。何が食べたい」
「えっ?いいの?じゃあピザまん」
「案外安いな!しかもあっさりエビフライを諦めるのか」

ほんと、この人は何を考えてるんだか。それに付き合うレギュラー陣はすごい。しかし部長は女子を雌猫扱いなのにこう手厚く何かしてやるなんて、みょうじ先輩に甘いなぁ……。

「あっ、でも私お腹いっぱいだしいいや。気持ちだけ頂戴しておくよ」
「……みょうじさん、どうして満腹なんですか?」
「だって……日吉くん!それは、あれ?何でだろ?」
「わかんねーのかよ」
「……はっ!そうだ!」

回転し続けていたみょうじ先輩が止まった。

「私エビフライ食べてお腹いっぱいで寝ちゃったんだよ!すっかり忘れてた!」


レギュラーが相手でピザまんを奢る程度の罰で済むみょうじさんはそれなりに愛されているようだ。特に怒らせるとひとたまりもない部長と日吉が……そうなんだから。
エビフライも本気でやったことらしい。レギュラー陣は女子にも人気の的だから、媚を売らず逆に喧嘩を売るような自然体な所がみょうじさんの魅力だろう。
楽しそうで何よりだ。俺はお断りだけど!

余談だが俺までみょうじ先輩にピザまんを奢ってもらった。


2016/09/18修正

モブくんは夢主にピザまんとしてインプットされます。
今まで第三者という第三者の小説を書いたことがなかったので書けて良かったです!
一応設定上存在はしている夢主の兄と元兄を出す気は今のところないですので……しかしこれからは第三者視点も!

椿様、リクエストありがとうございました!


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