「暑い……」
「暑いのう……」
「お互いが涼しくなるいい方法を授けてしんぜよう」
「ほう、そんなのあるんか」
「私から30cm離れた位置に座ること」
「ヤじゃ」
「何がヤじゃだ!可愛いと思ってんのか!0距離暑いから離れてよ!」
こんなに蒸し暑いというのに、ベンチで休憩する私のもとに仁王くんがやってきてくっつく。仁王くんは条件反射のように私にくっついてくる。お前は磁石か。
実際私が距離をとろうとすると近付いてまた0距離に戻る。その繰り返し。
「なまえちゃんアイス食べとるんじゃけ涼しいじゃろ」
「口の中だけだよ。私の右側はすっごく暑いし鬱陶しいよ。ムシムシする」
「口の中涼しいだけマシじゃろ。あー暑い」
「寄り掛からないでよ!あっつい!」
仁王くんのふわりとした銀髪が顔近くに当たる。押し返そうとするけど重いっていうか力強いというかびくともしない。
「暑いんじゃー」
「……」
「なまえちゃん暑い」
「その言葉そっくりそのままお返しする。離れてくれたら涼しくなるのに……あ、もしかしてアイス食べたいの?」
あまりに仁王くんが暑い暑いとうるさくて、それで私にちょっかいを出すのはもしかしてこのチョコバーのせいなのかしら。図星なのか仁王くんは頭を起こして黙ったまま。
「やっぱり欲しいの?」
「……まあそんなところじゃ」
「1口だけならいいよ」
仁王くんにアイスを渡す。ちょっと面食らったような顔をしてる。
「あーんしてくれんかの?」
「赤ちゃんかよ。特別だぞ。はい、あーん?」
次はちょっとが取れた、面食らったような顔になる。仁王くんはアイスに視線を落とす。私の跡部くんのマネそんなにヘタだった?食べる気配があるようでない。何か迷ってるようだ。ちょっとこの仁王くんは興味深い。
「食べないの?」
「……」
「……」
「やっぱりやめとくぜよ……」
「はー!?」
仁王くんはそっぽを向いてしまった。仁王くんが無言で止まってたせいでアイスはちょっと融けてる。これはひどい。
「何よ!昨日ブンちゃんの食べかけのお菓子食ってたくせして!私の食べかけは食えないってか!」
そこになおれ!説教してくれる!と怒鳴るが仁王くんはこともあろうにそっぽを向いたままだ。
「ちょっと!仁王くん聞いてるの!?」
「聞いとるから、なまえちゃんあんましこっち見るんじゃなか」
いつも飄々として食えない仁王くんらしからぬ弱々しい声。一体どうしたというの?
「どうしたの?何、虫歯とか?心配だからこっち向いてよ!」
前に回りこんで顔を隠していたか手をどかすも、とても思いもよらない表情を見てしまった。
「何で顔赤いの?」
「まさかなまえちゃんがするとは思わんかった……」
……跡部のマネだったけど。
プライドゆえか最後に絞り出したセリフ。
チョコバーの雫が手を伝って落ちた。
ちょっとベタベタするけど、仁王くんを見てたらなぜか悪くないと思える。
「仁王くんって意外と可愛いんだね」
「男に向かって可愛いとはなんじゃ」
君の可愛さに免じて今度からある程度ベタベタしてきても許してやろうではないか。
2016/09/18修正
ヘタレ仁王良いですよね!本編では悩みに悩んでヘタレてない仁王で発車したのでここで書けて良かったです〜!
季節感がないのは……本当に申し訳ないです……。
本編では財前くんとの絡みも徐々に増やしていきますので。
素うどん様、リクエストありがとうございました!
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