「なまえちゃん、何してるの?」

幼馴染のなまえちゃんのお家は私の家の斜向かいにある。家も近いししょっちゅう遊ぶんだけど、今日のなまえちゃんはまた本能のまま行動していた。

「ドミノしてるの」
「ドミノ……」
「今日はほら、3時間授業だったじゃん?時間もたっぷりあるし」
「だからドミノやってるって、なまえちゃんがドミノしてるの初めて見たよ……」

玄関に入るとなまえちゃんが寝そべってドミノを並べていた。
家に上がってドミノを追ってみるとリビングをグルリと一周し、2階に上り下って和室を通って、それから玄関。途中には某教育番組ばりのセットが準備されていた。クオリティーの高さは流石なまえちゃん。半端なことはしない。

「でも5時間で1人でここまでできる?」
「それはほら、気合とお昼のハンバーグの栄養の力を借りたんだよ」
「じゃあそこにおやつのケーキの栄養を足さない?」
「おお!まさか杏ちゃんの手作りだったりする?」
「せいかーい!レアチーズケーキ!」
「食べる!」

なまえちゃんが勢い良く立ち上がったせいでドミノが微かに揺れた。
あまり暴れられない状況ってみょうじ家には厳しいんじゃないかなぁ……。



「レアチーズケーキおいし〜」
「気に入ってもらえてよかった」
「嫁に来ないか」
「おじさんみたい」

なまえちゃんの部屋はすでにドミノに占拠されていた。正直安心してレアチーズケーキも食べられない。ドミノに周囲を囲まれているのは私やなまえちゃんだけじゃなくてぬいぐるみも。
囲まれているニョロゾがまるで生贄みたい。


「なまえちゃんどうしてドミノしてたの?」
「明日桔平の誕生日でしょ?桔平にしてもらおうかなぁーって」
「お兄ちゃんの為に?」

お兄ちゃんなら何でも喜ぶしなまえちゃんがしてくれることなら尚更だけどなぜドミノなんだろう。しかも前日って。

「だって桔平だからね」
「お兄ちゃんだから?お兄ちゃんだから?お兄ちゃんだから?」
「むぐぅっ」

なまえちゃんに詰め寄ると噎せてしまった。近くのドミノが振動で揺れてる。倒れちゃうよ!

「杏ちゃんびっくりさせないでよ……一体どがんしたの?」
「だって!お兄ちゃんは特別なんでしょ?どうして?」
「そりゃあ親友だからね」
「もー!レアチーズケーキ返して!」
「ええええ何で!?」

なまえちゃんとお兄ちゃんの恋愛事情は橘家の女性陣がドラマ並みに大好きな話題。
お兄ちゃんはなまえちゃんが好きなんだけど全然自覚してなくて、一方で目下のライバル千里くんは眈々となまえちゃんを狙ってる。
そしてまた当のなまえちゃんもお兄ちゃんと同じ無自覚……。

「もーっ!なまえちゃんってば!」
「あああんまり暴れるとほら、ドミノがドーッっていっちゃうから!
あ、兄ちゃんお帰りー!ドミノには触らないでとりあえず杏ちゃんを一緒に止めて!」

なまえちゃんの一つ上のお兄さんに止められて、お茶を一杯貰う。
なまえちゃんがお盆越しに不安そうにこっちを見てる。

「はーっ」
「杏ちゃんお姉さんびっくりだよ……」
「なまえちゃんはもう妹!」
「えええ!」
「なまえちゃんより幼稚園児の方が恋愛に関してはよっぽど大人だよ!」
「ええええ……なんか説教されとる」
「もう!レアチーズケーキ貰うね!」
「あああレアチーズケーキ……」

我ながらレアチーズケーキは美味しかった。
鈍感で無知ななまえちゃんにはちょっと反省してもらわなきゃ。

「で、なまえちゃんは結局お兄ちゃんと千里さんのどっちが好きなの?」
「どっちが好きと言われましても……甲乙つけられないっていうか」
「本当に?」
「本当」
「嘘だよ」
「なんで信じてくれないのさー!」
「だって、だってなまえちゃん、絶対お兄ちゃんのこと好きだよ」
「私が桔平を?」
「うん。絶対そうだもん」
「そうなのかなぁ……」

なまえちゃんが珍しく真剣な顔で考えてる。さっきまでチラチラとレアチーズケーキに向けられた視線も閉じられてて。

「私は、確かに桔平が好きだけど、ちょっと違うのかな……」
「お兄ちゃんのこと考えたりする?」
「するよ。桔平今何してるんだろうなぁーとか。テニスの練習してるのかなぁーとか」
「うんうん」
「テニスというと、桔平がテニス始めたときちょっと悔しかったなぁ」
「悔しかったの?」
「桔平を取られちゃった気がした」
「なまえちゃん、やっぱりそれ……」
「私、桔平のこと……」

カタカタカタカタカタカタ

「!?」

ジャストなタイミングでドミノが倒れ出した。何にもしてないのに!?空いているドアから向こうを見ると階段の所も綺麗に倒れているから1階から倒れてきてるらしい。

なまえちゃんは呆然とそれを見てた。

カタカタカタカタ

部屋を一周して、儀式中のニョロゾの周りもドミノは周回して……そのまま1階に降りていった。多分和室のハートマークも綺麗に倒れて表れていることだろう……なまえちゃんにとってそれを見せたい人は違ってしまってるけど。

「なまえちゃん?」
「くそあにきだ」
「ちょっと、なまえちゃん」
「絶対許さん」
「落ち着いてなまえちゃん!」


でも内心なまえちゃんのお兄ちゃんを一発殴ってしまいたい気持ちになった。
それを代弁するみたいになまえちゃんは「オラオラオラオラ」と言いながら3つ4つパイを顔面にぶつけてた。

用意があまりに良いから、聞けば「桔平に顔面パイでお誕生日ドッキリするつもりだった」そう。


「なまえちゃん」
「なになに?」
「ドミノはダメでも明日お兄ちゃんに顔面パイしようね」
「杏ちゃんお主も悪よのう」

こう、好きな人に容赦ないなまえちゃんを是非私のお義姉さんにしたいと思う。



2016/9/18修正

リクエスト頂いたとき「杏ちゃんひゃっはー!」となり実は4つほど書いたんですが一番小学生のノリに近いものを選ばせていただきました。
いやぁ……考えてみたら女の子と絡む話をそんなに書いたことがなくて迷走しまして。すみませんでした……。
いつか本編にも杏ちゃん……橘兄妹を出したいです!
慧莉さんリクエストありがとうございました!

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