「そのチーズケーキは360kcal。かっぱえびせんは486kcal」
「?」
「今食べているポテトスナックは232kcal」

食後のおやつタイムの時に蓮二がノートを見ながら淡々と私の食べているおやつのカロリーを読み上げていく。その表情はまさしく無であり私はワケが分からずその様をじっと見ていた。
食べるのはやめないけど。

「なまえが授業中にこっそり食べようとしているチョコボールピーナッツは580kcal」
「……むぐ」
「きのこの山は459kcalだ。
そして俺はたけのこの里の方が良いと思うぞ」

ごくりと咀嚼していたポテトスナックを飲み込んだと同時に蓮二のノートは閉じられた。

「……最後の情報いる?」
「もちろんだ」

最近の蓮二はちょっとおかしい。
いや、前々からデータ収集と称して謎の行動を起こす奴だなぁとは思っていたけど、最近は収集というより私に情報提供をしているようだ。なぜそれがカロリー情報なのかは私にも分かんない。

「蓮二が何言いたいのかさっぱり分からんのですが」
「自分の胸に手を当てて考えてみるんだな」
「自分の胸がDカップなことしか分からない」
「サイズを盛った確率100%」
「チッ」

蓮二にカップサイズを知られていることは奴がデータマンである以上最早どうしようもないことなので騒がない。
なぜ蓮二はカロリーを読み上げているのだろうか。全然分からない。

「なまえ、本当に分からないのか?常日頃鈍いとは思っていたがここまで重症だとそれはただの馬鹿でしかないぞ」
「ええー。だって分かんないんだもん」
「……なら次は自分の腹部に手を当てて考えたらどうだ?」
「お腹?」


私はお腹に手を当ててみた。


「!?」
「分かったか?」
「お腹出てる……」
「そうだ。前から気にしていたろう」
「こここれはもしや妊娠!?」
「……」

蓮二の目がカッと見開いた。私だってびっくりだよ。まさか妊娠してるなんて思わなかったから!心当たりを記憶の隅々まで捜索する。
しかし、心当たりらしい心当たりは目の前の人しかいない。

「……蓮二くんよ」
「言っておくが俺は違うぞ」
「えっ、じゃあ私は知らない内に子どもを妊娠したってことなの?」
「妊娠だとしても自業自得なのには変わりない」
「そんな言い方ないじゃない蓮二くん!私は身に覚えないんだから!多分蓮二くんの子どもだから!」
「公衆の面前で大声を出すのはやめた方が良い」
「蓮二くん好き過ぎて妄想妊娠とか?」
「自覚がある時点で妄想妊娠ではない」
「じゃあこのお腹の膨らみは!?答えて蓮二!」
「答えてやろう。それは脂肪だ」

蓮二がむにゅっとお腹の肉を摘まんだ。

私のお腹にいるのは蓮二との愛の結晶ではなく日頃の怠惰の結晶だった。


「……最初にカロリー読み上げてたのって」
「以前お前に恰幅が過剰に良くなった話をしたら怒ったからな。俺としてはオブラートに包んだつもりだったのだが。したがって今回はお前が口にするもののデータを提供することで自覚を促していた」
「恥かいたじゃん……もうストレートに言ってくれた方がいいよぉ……」
「なまえは注文が多い」

蓮二はふっと笑って清々しげにノートのページをめくった。

「痩せたいならまずきのこの山をたけのこの里に変えるんだな」
「どうして?」
「たけのこの里の方がカロリーが低い」
「ほうほう」

彼氏が痩せろというので私はきのこの山をたけのこの里に変えることにした。
その日から蓮二プロデュースダイエット大作戦が始まったわけだが。


「何これ……たけのこの里めっちゃうまい」
「きのこの山1箱がたけのこの里2箱になってしまっては本末転倒だろう」

たけのこの里の所為で成功は程遠くなった。
私は蓮二が失敗らしい失敗をする所を初めて(しかもこの身をもって)体験した気がする。



2016/9/18修正

要は蓮二はたけのこの里派っていうお話でした。
慧莉様、リクエストありがとうございました!
慧莉様にはTwitterでも仲良くしていただきまして本当に嬉しい限りです。
もう一つもアップしますのでお待ち下さい!


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