古城で行われるサロンで、
Le belle excentriqueを連弾した。

コンクールで演奏するよりもまた違った雰囲気で楽しかった。毎日このくらいフランクにできたらもっともっと日常が楽しくなるのに。

「素敵でした!」

演奏が終わって、色々な人から笑顔で何か言われたんだけど……ドイツ語はいまいちよく分かんなくて「ハハハ!ダンケシェーン」とでも言っとけというホームステイ先のお姉様であるリーズルの言葉に従って片言の挨拶をする。連弾のセコンドだったリーズルの親友であるエラは苦笑いしてたから相当通じてなかったに違いない。
やべーどうしよ、と思ってたところで日本語で話しかけられた。

「あれ?日本人?」

めっちゃ背の高い少年は、この会場には多分私くらいしかいない東洋人系だ。

「俺、同じ氷帝の生徒ですよ!」

まさかいるなんて知らなかった。
別に短期留学プログラムの一環というわけではなく、このサロンで演奏したのは完全に個人的なものだったから。
言語環境が被る人に会えて泣きそう。

「俺は1年の鳳長太郎といいます」
「えっ、てっきり3年生かと」
「いえ。1年ですよ」
「……ちょっとくらい身長を……」
「どうされましたか?」
「いえ!何でも!」

彼はふっと優しく笑うと、
「どうですか?向こうでお話しませんか?」
と私に手を差し出してきた。
彼は礼服だし、私も珍しくドレス。
これなんて童話???と自問自答しながら私は彼の手を取ってバルコニーまで歩く。

ここで本物のプリンセスなら王子様の御名を忘れたりはしないだろう……つまり私は……みなまで言わない。


「そうだ。名前名乗ってなかった!私みょうじなまえっていうの!よろしくね」
「知ってますよ。実は俺、監督……じゃなくて榊先生にこのサロンに連れてきてもらったんですよ」

さっき演奏前に聞きました。とバルコニーの席に座って彼は言った。ええと……名前。名前もっかい聞かなくちゃ。

「俺、とっても感動しました!同じ学校にあんな素敵な演奏ができる人がいるなんて!」
「あはは、褒めても何も出ないよ。それとね、えっと、お姉さんね……」

君の名前を是非とも、もう一度お聞かせ願いたいんですが。

と言おうとしたところで矢継ぎ早に言葉が降ってくる。

「みょうじさんはいつからピアノを初められたんですか?それと俺、いつかみょうじさんのショパンを聴いてみたいです!ショパンお好きですか?」

は、速えええええ!
速すぎるよ!私が名前を聞こうと付け入る隙も与えないね!すごいね!

「ショパンなら色々好きだよ。有名所ならエチュード10-4とか……」
「みょうじさんが弾くのを是非聴いてみたいです!」
「ハハハ!ダンケシェーン……」


エラ苦笑のドイツ語も使ってしまった。私と彼は同じ語圏出身とは思えない……私が元々は熊本県民だからか?こうだったら私もうちょっと日本語勉強してくれば良かった。
元々この短期留学先がエジプトだと思って「アッサラームアライクム」「マジシャンズレッド!」とか練習してた自分殴りたい。


「実は俺もこの後演奏させてもらうんです。ぜひみょうじさんには聴いてもらいたくて」
「うん、聴きたいな。何を演奏するの?」
「ジョンフィールドの夜想曲第1番です」

ジョンフィールドの夜想曲第1番。
私も好きな風雅で美しい曲だ。

「俺とみょうじさんが出会えた記念に、初めての一曲を捧げます」

彼は本当に年下なんだろうか。そんな気恥ずかしいことよく口に出せるなぁ。しかも多分無自覚だ。非常にタチが悪いと思う。私の経験上、好きな作曲家でその人の人間性がなんとなく掴めたりするけど、
ロマンティックな雰囲気はノクターンから自然に学んだんだろうか?


「だとしたら魔性だなぁ……」
「?」
「Entschuldigung!」

話している最中にボーイさんに呼びかけられた。あ、やべ何言ってんのか分からないと焦ってると魔性くんが……ドイツ語で会話を始めた。ドイツ語喋れんのか……。

「みょうじさん、俺そろそろ演奏です」
「……あ、そっか。ちゃんと聴くね」
「ちょっと照れちゃいます」

ではと背を向ける彼に一言、声をかけた。
肝心なことを忘れる所だった。

「ごめん!名前もう一回教えてくれる!?」
「鳳長太郎です。覚えてくださいね!」


ジョン・フィールドの夜想曲第1番
優雅で美しい光の粒のような旋律。
世界で一番最初に作曲された夜想曲で、
それが一番最初の出会い。


2014.11.29修正
鳳くんみたいにショパン好き男子はロマンティックで一途で繊細なイメージがあります。
テニプリキャラにはクラシック好きが多くてみんなの好みがしっかり性格を反映してるなぁと思います。ただ永四郎だけ何でシューベルト好きか分からないw

大変遅くなりまして申し訳ありません……。
リクエストありがとうございました!


一部表示できていない箇所を修正しました。
申し訳ありません。

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