「迷った……」

『音楽短期留学、オーストリアか〜。言語能力さっぱりだけどいいか。音楽を愛する心さえあればいけるさ』と思ってたがそんなことはなかった。やはり現実的なスキルも持たなければならない。
スキル……英検3級でいけるかな。ハローハワユー?

「っていうかリーズルどこ行ったんだろう……」

リーズルとは私のホームステイ先のお姉さんである。はぐれてしまった彼女を探しながら美しい湖畔の町をさまよう。
もしかして私はここで誘拐されちゃったり売り飛ばされちゃったりするんだろうか。
いやいや縁起でもない。自分からフラグを建ててはいけない。皆さん、このフラグは不発です!不発!


自分に暗示を掛けながら私はできるだけ人通りが多い道を選びつつ歩き出した。


「あっ!いた!なまえさん!」

石畳を黙々とたどり、着いた広場で『さすがにこれからどうしたものか』と考えていると……留学3日目にジョンフィールドの夜想曲弾いてた彼が息を切らしながら走ってきた。例のごとく名前が、出てこない。

「あれ、君は……」
「鳳長太郎です!」
「あ、チョタくんだ。ごめんね、なかなか覚えられなくって」
「それより!探していたんですよ!リーズルさんから行方不明になったって聞いて!」

何事もなかったみたいで安心しました、と笑う。チョタくん可愛いなあ。というより安心する。綺麗だけれど全然知らない街並みに不安を煽られていたところで、チョタくんが来てくれたのだ。実は迷子になってすごくドキドキしていたのだ。

「っていうか私がここにいるってよく分かったね。」
「それは……ケーキ屋の男性が『ちょっと変わったマリア先生がドレミの歌を歌いながら広場の方へ向かった』って教えてくれたんです」
「あのクッキーくれたおじさんだ!チョタくんよく意思疎通できたね」

私は緊張を紛らわすためにドレミの歌を口ずさみながら、リーズルはいないか〜とお店を覗いてるときに笑顔のおじさんに声を掛けられたのだ。何か言ってたけど、一切理解はできなかった。クッキーをくれて去り際に手を振ってくれたのでいい人だということは分かった。

「少しくらいなら。あの人、なまえさんの歌をとても褒めてましたよ。いい歌を聴かせてくれたお礼にクッキーをあげたって」
「なあるほど」

歌でもピアノでも褒められると嬉しいものだ。さっき1枚だけ、丁寧にラッピングからクッキーを取り出して食べた。とっても美味しかった。

「実はリーズルさんに、なまえさんを見つけたらそのケーキ屋さんで待ち合わせする約束をしているんです。おじさんにも言われていますし」
「なんでクッキーおじさん?なんで?」
「ザッハトルテをご馳走してくれるんだそうです」
「マジかよ」

じゃあ早く行こうぜ!とクッキーおじさんのお店へ突撃しようとしたら、チョタくんに片手を掴まれた。

「どうしたのチョタくん」
「迷子にならないように手を繋ぎましょう」

爽やかな笑顔で言われては恥ずかしいとも言えない。
慌てて周りを見ていると……カップルばっかだ。自分たちも軽く溶け込んでしまっている。まさかこんなことになるとは。

つまり私は、
迷子になった時より緊張していた。

「ド、はドキドキのド……」
「なまえさん?」
「いやいや何でもないよ!」




2014.10.31

夢主ならザルツブルクかハルシュタットに行くなと思いましてハルシュタットを選びました。
ハルシュタットはサウンドオブミュージックの撮影場所として有名なので少しだけ出してみました。夢主がマリアなら鳳くんはポジション的にトラップ大佐なわけですが軍人じゃあないですね流石に……。
留学ネタはこれからも短編等で出せたらと思います^^
リクエストありがとうございました!


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