「夕立かぁ……」
「これは激しいな」

まだコートにいるときに雨に降られてしまった。

他の青学のみんなは既に合宿所の方に戻っちゃってるみたいだし。コート近くの屋根の下、私と手塚くんとドキドキ☆2人きりなわけだが……正直別の意味でもドキドキしてる。

「みょうじさん、だいぶ濡れたな」
「うん。ちょっとぼーっとしてて」
「確かに俺が声を掛けるまで上の空だった」
「あはは。なんか良いメロディ思いつきそうだったからね」

手塚くんは微かに笑って私にタオルを掛けてきた。更にはジャージまで。

「使っていいの?」

それとこのジャージ貰ってもいい?という本音が出かけたが抑えた。よくやった自分。めっちゃいい匂いする。

「ああ、俺は免れた。
……油断せずに行こう」
「?」

出た、口癖。もう手塚くんは私を見てなくて横顔だったし、私に言ったのかは分かんないけど。にしても手塚くんは本当にかっこいいなぁ。私の理想が魂と体を得て動きだしたような人だ。こんなに優しいし。これが忍足くんとかだったら私は今頃ずぶ濡れでも良いから逃げてたよ……。

「ぴゃっ!!」
「みょうじさん?」
「い、今の雷……」

私は腰を抜かした。

そう、私。何を隠そう、雷がこの世界に存在するもの全てかき集めた中で最も嫌い。
もはや悲鳴すら上げられない本当の恐怖よ。

「みょうじさん、雷が苦手なのか?」
「雷ムリ。例のあの人によって魔法少年の額に刻まれた傷を見るのも一瞬ためらう。ポケモンにこの技命令するのも躊躇する」
「……なかなか重症なようだが」

あたしゃ羨ましいよ、世の女子が。
「きゃーん雷こわぁい手塚くぅん(はぁと)」ってする余裕すら私には残されてないんだよ。こんな嫌いなモノ世界選手権暫定一位と好きな異性世界選手権暫定一位がいる歪な空間。やっぱり嫌いという感情は好きより強烈だと思うよ。怖い、めっちゃやばい、声も出ない。

「みょうじさん、大丈夫だ。ここにいればまず当たらない」
「まず当たらないって当たるかもしれないってこ……」
「当たるといってもこの建物だ」
「私近くに落ちるだけでもショッ……」
「突然止まられるとこちらが不安になる」
「でも雷鳴ってると喋れな……」

わざわざしゃがみこんで私を安心させようとする手塚くんの優しさが心に染みる。同時に轟音や閃光も耳目に染みる。

「みょうじさん。まず目を閉じるんだ」

目の前の手塚くんに言われて私はぎゅっと目を閉じる。

「次に、タオルも使っていい。耳を塞ぐんだ。雷が止んだら合図する」
「うん」

次に耳を塞ぐ。
雷の音は完全にシャットアウトできなくて低い唸り声のような音に若干びびってたら私の耳を塞ぐ手に、更に大きい手が添えられた。

「……」

……雷より心臓の方が煩いかも。



しばらくして手塚くんの手が離れて、頭を撫でられた。耳目を開放すると手塚くんがうっすら笑っている。

「よく頑張ったな、みょうじさん」

……美味しいシチュエーションなのに正直二度と味わいたくない。これ全て雷のせい。諸悪の根源。悪の自然現象。

「雨もだいぶ上がった?」
「ああ。そろそろ戻ろう」

いつの間にか、ちょっと距離を置いた所に1本、傘が立てかけてあった。

「桃城がさっき持ってきた」
「あの雷の中持ってきたの?すごいなぁ。
でも桃城くんもうちょっと気を利かせてくれたらなぁ。傘一本って」

正直私はさっきのシチュでお腹いっぱいである。これ以上手塚くんのスマートな行いを摂取したらパンクしそうだ。

「それは違う。桃城は、意外なところで気が利く」
「そうなんだ」

手塚くんが傘を開く。
まだまだ雨足は弱くなったといえど小雨が降り続いている。
私にもあと1つイベントがある。
……明日高熱出しそうな予感しかしない。

2016/09/18修正

手塚くん好きなので書けて良かったです!あの人の男前ぶりはどうすればいいんだろうどうやったら表現できるだろうと思いながら書きました……。
結果、偽物になってしまいましたが……。

みけ様、リクエストありがとうございました!


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