熱帯夜でも暗闇は冷たい。
森の暗闇はぞくりと背中を凍らせるけど夏バテの私にとっちゃ正直暑さでどうせ融けるんだよね。

じゃあもっと凍らせようやって、忍足くんが肝試しに誘ってきた。
面子を見て背中を凍らせるというか震わせてしまった。


「あっくんも参加するなんてクソワロタンバリンシャンシャンカスタネットタンタンプップクプーシャンシャンブーチリリリリリン」
「肝試し始まる前にお前が取り憑かれたのか」

あっくん千石くんに捕まったんだね。

そういえばあらかじめ「女子一人だし」と青学の大石くんや不二くんが私にパートナーの指名権をくれたんだけど(女子…!って目で私を見てきた宍戸くんには膝かっくんしてやった)、これはもう一択でしょ。

「私あっくんとペアがいい!」
「はあ!?何でお前みてえなうるせえ女と一緒に行かなくちゃなんねーんだよ」

とか言いつつはっきり嫌とは言わないからOKということだ。

「えー、なまえちゃん俺と組まない?」

千石くんが肩を抱いて誘ってくる。君はスキンシップ激しい分忍足くんよりたち悪いかもね。私が払い除ける前にあっくんが不機嫌そうに千石くんの手を払い除けた。

「あっくんは対悪霊怨霊に特化した不良だもん」
「何いってやがる」
「いざとなったら霊丸や霊光弾つかうから」
「そのネタやめろ!」
「獣の槍も使える」
「WJじゃねーよサンデーだろ!」


あっくんのツッコミが激しいときはつまりノリノリだということだ。




「案外雰囲気出てるねー」

雰囲気出てるも何も灯りのない夜道を歩けば肝試し同然なんだろうけど。
私は特にホラーが苦手なわけでもないのであっくんの横を並んで進んでいく。

「あっくんさっきから無言だけど怖いの?」
「なまえがうるせえから黙ってるだけだ」

声のボリュームが抑え気味。
あっくんは少々ビビりだ。一応、段々途中から慣れると態度がでかくなってはくる。

「おい、なまえ」
「うい?」
「これ持っとけ」

あっくんが脈絡もなく話しかけてきたと思えば、何か黒いものを渡してきた。
暗闇でよく見えない…探ってるとスイッチがあって、ついつい触ってしまった。

「ああああぁあああああ!!」

突如響いたけたたましい音と青白い閃光で、本気の叫び声が出てしまった。

「ちっ、うるせえな!」
「ああああっくん!何これ!」
「スタンガンだ」
「非殺傷性個人携行兵器!!!」
「バカなのか頭いいのか全然わかんねぇなお前…」

スタンガンって5万から100万ボルトあるんでしょ?ピカチュウの10万ボルト食らうのと同じ位の衝撃もあるとか……うわ怖い!

「でもこれ幽霊に効果あるの?」
「知らねえ」
「あ、でもゴーストタイプに電気タイプの技は等倍か」
「……ゴルーグには効かねえな」
「あっくんそんなにポケモン知ってたっけ?」

ていうかスタンガン持ってたことすらも謎なんだけど。

私はスタンガンを装備し攻撃力を1000上げてあっくんをお供に旅を続ける。

「あれが祠じゃない?」

祠に名札を置いたらゴールだ。
なんかあっけないな。

「幽霊にはエンカウントしなかったね」
「エンカウントしてどうするんだよ」
「あっくんが霊丸で悪霊や妖怪を退治しているところを……」
「そのネタ引きずるのやめろ。ほら、さっさと帰るぞ」
「おう!えっと、この辺に名札置いて…と…あり?」

今祠がガタ…と音を立てたような…。

「どうした?なまえ。さっさとしろ」
「あっくん……今祠動いたよね」
「そんなわけねーだろ」


ガタガタガタガタガタガタガタガタ

「ほら!めっちゃ動いてるよあっく…」

私はあっくんの方を振り返る前に見ちゃいけないものを観た。
暗闇に浮かぶ、二つの目……。

「あああぁああああぁああ!」
「うわぁあああああぁああ!」
「なまえ!」

あっくんは咄嗟に私を背後に隠すと祠の方にガンを飛ばし始める。
夜に残った草いきれが緊張した私の体に纏わり付いている。しかし、二つの目はそこにはなかった。
代わりに、ガサガサと誰かが草木を掻き分け走っていくだけ。


「ちっ、誰だ今の……」
「やば、久々に肝試しでびびった……」
「なまえにびびって逃げやがった奴が気の毒でなんねーぜ」
「あっくん酷い!『なまえ!』とか言って颯爽と私を後ろに隠したクセに!」

あっくんは言葉を詰まらせると、もういい!帰るぞ!と言わんばかりに私の手を掴んで歩き出した。

なんだこの少女漫画的展開。
幼馴染の友情が恋に昇華するって感じ。

「なまえ」
「なんでしょうかあっくん」
「俺がいねーときはスタンガンでどうにかしろよ」
「でももう肝試し終わるじゃん」
「うるせえ!まだ無人島生活は終わってねーだろうがよ!
……千石みてぇなのも何人かいるしな」


私にとっては日常生活も肝試しみたいなもんってこと?いうて私こんな逆ハー状態でもモテてないしさ、現実って辛いよね。

でもさ……でもさ、あっくん。

「さっきの、つまりさ、あっくんが側にいるときは私を守ってくれるってこと?」
「自惚れんじゃねーぞ」


否定しないって…自惚れるわ!

奇跡的に熱帯夜の暑さと、
底知れぬ冷たい暗闇とが
私の熱と色を隠す。
ちょうど背中に隠すみたいに。




2014.08.30

うわぁ…何なん少女漫画やん…。
驚いて逃げた誰か(幽霊なのかそうじゃないのかはお任せ)はヒロインの鬼太郎みたいなルックスと楳図かずおばりの恐怖顔で逃げた。
次回5作目で終了予定。
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