私の知ってるがっくんもよく跳ぶけど、テニスをする時のがっくんはもっと跳ぶ。

回数もしかり、その高さもすごくて、太陽にどんどん近付いていくがっくんを見て感心したものだ。


「けど近くでみるとより小さいねがっくん」

給水で木陰に来たがっくんに水を渡しながらそう言うと案の定怒り出した。
いつも面倒臭くなるのは分かっていても言っちゃうんだなぁ。

「クソクソ!バカにすんなよ!
お前だって俺と同じ身長だろ!」
「私はこれから175cmに成長する予定だから」
「跡部と同じ身長!?」
「ゆくゆくは190cmくらいに」
「次は樺地!?そんなの無理に決まってるだろ!」
「チッチッチ」
「何だよムカつくな」
「黄色のハンカチにひまわりの種を靴の中に入れておくとね……」
「ウソ吐くなよな!あれじゃ身長は伸びない!」
「もしかしてがっくん実践したの」
「当たり前だろ!」

がっくんの身長に対する努力は涙なしでは語れないものがあるのは私も承知であったけども、こんなマイナーなおまじないにまで手を出しているとは…
そして報われないとか……。
今なら私はがっくんの為に残酷な神をも敵に回せる。

「大丈夫だよがっくん。成長期来てないだけでしょ。牛乳いっぱい飲んであん肝めっちゃ食べればすぐ伸びるよ」
「あん肝?」
「ビタミンDめっちゃあるから骨の形成を促してくれるよ」
「なまえって意外に物知りなんだな……」
「そりゃ私も身長を伸ばしたい同志だからね」
「本当に樺地目指してるのか!?」
「ハッ!当然!って、なぜ噴き出す」

がっくんの為なら神さえ敵に回せる気持ちになったのに、突然笑い出したのには腹が立ったので、がっくんを追い回すと彼は跳ねながら逃げていく。

「へへっ!ここまで跳んでみそ!」
「このー!ちょこまかちょこまかと!」

捕まえた!とがっくんをホールドしようとするとムーンサルトで逃げた。
ただでさえ夏バテ気味。はあはあと息が上がるも私の本気の思いを笑われた怨念は凄まじく炎天下の中ほとんど気力で動いていた。

がっくんの背中に転べ転べと念じながら足を動かしていた私の思いは少しだけ通じたらしく、がっくんは歩み(跳び?)をやめて、私の方に近付いてきた。

「なまえ!」
「まさか自ら敵地に赴いてくるとはどういう了見なの?」

内心赴いてくれて安心してます。

「お前はその身長のままでいろよな!」
「どうして?」
「そ、そんなのどうだっていいだろ!」
「良くない!私に野望を捨てろというの!?」
「野望っていうか無謀だろ…」

170cm、いずれは190cmになっておばあちゃんの家の柱に『なまえ…190cm』って刻みたいんだ!先人達や親戚達を追い越したいんだ!

「私に野望を捨てろというならがっくんだって私と同じ身長でいてよね!それでフィフティー・フィフティー!」
「クソクソ!何で俺……」

がっくんは一瞬驚いた顔になって、そのまま考え込んでしまった。

「……」
「どうしたの?らしくないよがっくん、そこはガツンと言ってくれてもいいんだよ?」
「俺さ、なまえと同じ目線で何かを見るのもいいと思ってる」
「さ、作用でございますか……」

身長にあれだけ執着心を持つがっくんが私と同じ158cmのままでいいなんて…。
動きすぎて熱中症にでもなったのかな?

「なまえがそのままなら俺も158のままでいいから、158cmの高さの同じ景色を見たい。あとなまえの表情も見たい」
「う、うん」
「これでいいよな?約束だぞ!」
「お……おう」
「跡部や樺地と同じ身長になるなよ!」
「わ、分かった」

満足したようにがっくんは太陽のように笑う。背中にある太陽が輝きで負けそうだ。


「じゃあ続きだな!ここまで来てみそ!」
「まだやるのかよ!もう約束したじゃん!」
「それとこれとは話が別だ!」

白い砂浜に青い海のコントラスト、
小さく見える一人。
そして、目線の高さは小さくなってもお揃いだ。



2014.08.05

がっくんと追いかけっこしたい。

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