真夏暑すぎワロエナイ。

「大丈夫か?みょうじ」
「大丈夫じゃなーい……」

いざ無人島生活(黄○伝説みたいだ)を始めたら、とんでもない暑さに死にそうになった。
暑いなら暑いで、海に飛び込んだらそれでいい気もしなくないけど、もう海に飛び込む気力すら残されていない。


「……柳くんは何してるの?暑くないの?」

身も融解しそうな私の隣に座っているのは立海大付属中の柳くんである。

「それほど暑くはない。日陰にいるからな」
「すご……」
「みょうじはこの暑さでダウンするということは、いつも夏は室内で過ごしている確率97%」
「へいへーい。室内でクーラー付けてアイス食べてる軟弱者でーす」
「しかし、合宿ならば猛暑は避けられないのは当然だろう。跡部の誘いをどうして引き受けたんだ?」

柳くんの言葉で、私の脳裏にハーゲンダッツが思い浮かぶけど、結局暑さで融けてしまった。
残るのはグリーンティーフレーバーの芳醇な味わいではなく、食べられない虚しさだけ。
どうあがいても絶望。

「合宿って知らなかったんだもん」
「それは予想していた答えと違うな。2%を外したか」
「何か悪いことしたなぁ。
合宿なんて知らなかったし、ましてや合同だなんて。何かお手伝いしたらハーゲンダッツくれる位の認識しかなかった自分を全力でぶん殴りたい」

テーブルに突っ伏していた頭を柳くんの方に向けると、柳くんはノートに書き込みをしていた。
そういえば柳くんってずっとノートに書き込みしてるな。

「柳くん何してるの?」
「みょうじについてデータをな」
「データ……」

そういえば忍足くんが柳くんはデータマンだって言ってた。でも、そのデータ、一体何に使うんだ。

「引き続きデータに協力してくれるか?」
「減るもんじゃないし大丈夫だよ」
「では、今悩みはあるか?」

データ取るって、カウンセリングみたいなんだな……。

「うーん、ドラえもん観れないこととか、暑いこととか、ハーゲンダッツ食べれないこととか」
「些細な悩みだな」
「私にとっては重大なのだよ。
……でももっと重大なことがあるんだよ」
「それは?」
「このまま誰も来ないとかさ。そのせいで熱帯気候の中夏バテが延々と続いたりとか、ピアノが弾けないことも悩みだなぁ……」

考えれば考えるほど鼠算式に悩みが増える。
ちょっと待て、何か結構な重大問題なんじゃないか?

「恋人すらできず、こ、このまま結婚できなかったら……!目標は23か4での結婚なのに!ひいいいいいい!いやそれ以上にピアノ弾けないのは本当に重大問題じゃないか!」
「落ち着けみょうじ。考えても仕方がない。特に前者は救助されたとしても続く悩みだぞ」

酷いこと言われた気がするけど、そんなこと気にならない位、ピアノが無いのは重大だ。

「あーあーあーあーでもピアノ弾けないのは嫌だよ」
「残念ながら、それだけはどうしようも無いな」
「デスヨネー」
「だが、もう一つは100%どうにかできるな」
「?」

パタンとノートを閉じた柳くんは私を見て微かに笑った気がする。

「結婚の方はどうにかできる」

え?まじで?
しかもさっき100%って言ったよね。
柳くんが口にする100%って絶対当たるよね!やっほおおおおおお!

「ね?本当?確率盛ってない?大丈夫?」
「みょうじが23、4までにこの島でも結婚できる確率100%だ。この柳蓮二が保証しよう」
「して参謀!その方法とは?」
「俺と結婚すればいい」
「わあーい!柳くんと結婚!これで解決!」

そうか、なんて簡単なことなんだろう!
柳くんと結婚すればいいんだ!
なんかズレてる気もしなくはないけど、いいやいいや。

「式場は?」
「もちろん!真っ白なビーチで!」
「ドレスはないが大丈夫か?」
「いいよ!贅沢言わない!あ、でも婚姻届は?」
「ここに役所はないぞ」
「婚姻届書いてみたかったんだよなー。あー、でも紙もそんなにないか……」

島の物資なんて限られているわけで。
しかも紙なんてほとんど持ってきてないわけだ。

「そんなに書きたいなら、俺のノートがある」
「あ!ほんと?でも勿体無いよ?」
「1ページくらい構わない。二冊目の予備もある」
「うーん…でもなぁ」

柳くんの洗練されたデータに謎の婚姻届を書くわけにもいくまい。 
んー…仕方ないけど、ここは。

「じゃあ婚姻届は帰ったらにしよ!」
「!」
「!?」


柳くんって目開くのか……。
あまりに突然の開眼だったので本気で叫びそうになったのを喉の奥になんとか押し込めた。


「まさかみょうじが理解していない確率98.9%だったというのに……1.1%の方を当ててくるとは」

柳君の頭の中はきっと計算式が渦巻いているんだろう。羨ましいな。その数学の能力を私もシェアしたいよ。

「意外と鋭いのか……?」
「ていうか何の話してるの?凡人にも分かるように説明プリーズ」
「……」

……柳君の見開いていた目は静かに閉じられて、穏やかな表情になる。
にしても、さっきは本当にびっくりした。人知を超えた超常現象でも起こすのかと思ったよ。


「いや、なんでもない。俺が正しかったようだ」
「?変なの」

柳君を訝しげに見ていると、真夏なのに日焼けしてない白い手が私の頭を優しく撫でてくる。

いつの間にか、倦怠感さえ忘れていた。


「みょうじ、婚姻届は帰ったら書こうか」


すぐに降ってきたその言葉を、柳君は言いたかったんだろうか?
少なくともその言葉より、優しく撫でる白い手にどきりと胸が高鳴った。


2014.07.16

なんかサティの主人公ぽくないな…
仕方ないか…。

トップバッターは柳でした。
理由は私が柳好きだからです。
柳ってゲーム見た感じベタ惚れしちゃうタイプですよね。
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