突然ながら、1ヶ月前のこと。
私は見知らぬ男に誘拐されました。
「見知らぬ」男なので当然名前も知らない。

最初は身代金目的かなと思った。
ちょっと春にしては蒸し暑すぎる部屋の中、特に拘束もされてないので男に詰め寄った。男はあっけらかんとして言う。

「身代金ならもっと金持ちを狙うぜよ」

確かに実家もローンが残ってるよ、悪かったな。

「じゃあ何が目的なんですか?」

逃げたいのは山々だけどドアにはまるでマンガのように南京錠ががっちり。
逃げられる場所はないか横目で探りながら男の真意も探る。


「おまんを綺麗なコランダムにするんじゃ」
「は?」
「あー、バカそうだから分からんか。コランダムって、知っとるか?ルビーやサファイアの原石のことじゃ」
「へー」

……って感心しとる場合か!
この男、私をコランダムにすると。
ルビーやサファイアの原石にすると。

私のどこから宝石が産出されるというの。

「どうあがいても私がコランダムになるわけないでしょ。冗談ですよね?もしかして比喩ですか?ストレートにお願いします」

「おまんを綺麗なコランダムにする。
そのまんまの意味じゃ」

彼は本気であった。
私を本当にコランダムにするつもりらしい。
こいつ、錬金術士か。
時代錯誤ともいうべき思想を持った彼は、『どのくらいで出来るかのう』とか言ってる。そんなん100年かかっても無理だわ。
最後はキラキラ輝くブリリアントな宝石どころか私はカルシウムの棒ですわ。

「貴方……義務教育は終えられましたか?今は学生さんですか?」
「こう見えて私立の中高出身ぜよ。それにもう社会人じゃ」
「効果はなかったようなのでもう一回義務教育をだな」
「なまえちゃんは綺麗じゃから絶対に良いコランダムになるぜよ」
「頼むから話をだな」

私の話を全面的に無視した男は……どこで知ったのかは分からんけど私の名前を呼びながら、ポケットから出した赤い石と青い石を……恐らくルビーとサファイアだ。それを私の目の高さまで掲げた。どうやら見比べているようだ。


「ルビーと、サファイア。なまえちゃんはどっちになるかのう」

異常者。犯罪者。

簡単にいえばその2つで済むのだろうけど、私にはどうしてもその言葉で彼を定義できない。
なぜかは分からないけれど、彼を理解してみたいとも思う。
自然と出口を探すために泳いでいた視線が、目の前の男に向いた。

「貴方、宝石好きなの?」
「キラキラしたものが好きなんじゃ」


キラキラしたなまえちゃんを宝石にしたら、
もっとキラキラ輝くじゃろ?


光り物に寄せ付けられる、
彼は銀色の尾を持つカラスさん。
……どちらかというと狐っぽいけど。


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