振り向くとそこには跡部くんがおったそうな。
厳密には跡部くんだけじゃなくて、氷帝のテニス部のみんなと、あれ?真田くんや幸村くんは分かるけど何で立海のみんなまでいるのかな?私の処理能力が限界だよ。エマージェンシー……。

「黙っていてすまなかったな。この遊園地はお前と跡部を仲直りさせる為に企画したものだ」

何それ……氷帝のみんなもグルなの?跡部くんの呆れ顔とがっくんのしてやったり顔で明らかだけどさ。

「お前らの仲直りの為に俺たちコソコソしなきゃならなかったんだぜ。感謝しろよぃ」

ブンちゃんが近付いてきて私の背中をぽんと叩く。感謝とか言われても私には何が何だかさっぱりでですね。ますます混乱してきた!

「とかいって丸井先輩、副部長とみょうじさんがジェットコースター乗ったときにめっちゃイライラして気配バレバレだったじゃないすか」
「うるせー!」
「……何のこっちゃ」
「丸井と赤也はずっと俺たちの後ろをついてきてたんだ」
「何で?」
「氷帝と鉢合わせないように見張りだ」

氷帝と鉢合わせないため?
私が跡部くんたちの方を見るとみんなが『苦労したぜ』という顔をしている。

「跡部には昨日バレちゃって大変だったんだぜ」
「仕方ないから俺と柳生は跡部連行の手伝いぜよ」
「ここに連れてきても渋るから俺と真田も加勢しないといけなかったんだよ。もっとなまえちゃんと遊びたかったなー」
「これもバラしてしまった向日さんのせいですから」
「日吉!声が大きいって!」
「ついうっかりだったんだよ!」

やっとのこさ頭の処理が現状に追いついてきたぞ。

「じゃあ最初から言えばいいじゃん柳くん!」
「みょうじがサプライズ好きだというデータがあったものでな」
「いや好きだけど!今はサプライズ不要じゃん!」

抗議しても遅い上に柳くんは涼しい顔で、私を跡部くんの方に振り向かせる。優秀な参謀はこのまま自分の計画を遂行するつもりだ。

「そんなことよりみょうじ、行ってこい」
「えっと……」
「喧嘩させた一因の俺からみょうじへの詫びだ」
「う、え……」
「ここで行かないと後悔する確率は言わなくても分かるだろう?」

渋る私に言うことまできっちり用意していた。柳くんだって私のこと理解しているっぽいじゃん。

「ほら、跡部も行ってき」
「ここまで来たんだ。言われなくても行ってくる」


「……」
「……」

あ、やっべ気まずい。
跡部くんがじっとこっちを見てきて、私も頑張って視線を合わせているものの、気まずさがすごいことになってる。正直今すぐにでも走り去りたい気分だ。
……しかもなんかめっちゃ周りの人が見てくるし。

「何かの撮影?」
「え?何何?告白!?」

『告白?』だってぇ!?そんな甘酸っぱいワンシーンじゃねーよ!サプライズ感というより公開処刑感が出てるぞ柳くん。

「おい」

沈黙を破ったのは跡部くんの方だった。

「ななな何でございましょうか」
「場所変えるぞ」
「え、場所?」
「ついて来い」

跡部くんは私の手を掴むとそのままどこかへ足を進めていく。これには見ていたみんなもびっくりしたらしく、ただこっちを見ているだけだ。

「ま、待ってよ跡部く……!」
「待てねぇ。諦めろ」

まさか、まさかまさかまさか。跡部くんが選んだ場所ってまさかあああああああ!




「うわああああいやあああああ」
「うるせえ少し黙れ!」
「ど、どうぞごゆっくり……」

フリーパスを係員に見せて、そのまま煩く叫ぶみょうじをゴンドラにぶち込んで俺様も乗り込んだ。
窓の外を見ると俺様を遊園地に連れてきやがった奴らがこっちを呆然と見ている。俺様がただ黙って従う側なわけねーだろ。

「おい、みょうじ」
「……」
「みょうじ!返事くらい……」

みょうじは足元を刮目、凝視して何も言わない。一応謝るつもりでいたようだが、本当にその気だったのか?

「返事くらいしろ」
「……スケルトン」
「あーん?」
「……スケルトン」
「それがどうした」
「スケルトンスケルトンスケルトンスケルトンスケルトンスケルトンスケルトン」

それからみょうじは頭を抱えてスケルトンを連呼する。確かに足元は強化ガラス張りのスケルトンで地面と離れていく様をじっくり観察できる仕様だ。
まさか、みょうじの奴……。

「みょうじ」
「うわあああこっち来ないでええ傾斜傾斜!」
「高所恐怖症なのか?」
「観覧車だめ……観覧車だめ……」

真っ青な顔してがくがく震えるみょうじを目の当たりにして俺様は失敗を悟った。わざわざ俺様は二人で邪魔されずに話せる所を選んだはずだったのに……みょうじはどこまでも俺様の思い通りにいかない。

「お前はいつも思い通りにいかねーな」
「高い高い高い」
「本来は楯突いてくるぐらいの奴が好きなんだが……」
「怖い怖い怖い」

真面目に話にならねーな。本当に俺様の思い通りにならない奴だ。だが今回は俺様の思い通りになってもらおうじゃねーか。
俺様が立ってもこの女は

「うわあああ傾く傾くこっち来ないでええ!ノー傾斜ノー傾斜!」

この調子だ。

「うるせえ!さっさと隣空けろ」
「嫌だあああああ!」
「チッ、仕方ねえ。バッグ寄越せ」
「何で何で何で何で!」
「バランスが取れればいいんだろ」

気休め程度にみょうじと俺様のバッグを向かいの席に置いて、俺様はみょうじの隣に座った。途端に静かになったみょうじは不安そうに自分のバッグを見ている。

「これで満足か?」
「3割くらい満足」
「ただの不満だろ」
「不満じゃなくて不安なの!落ちて死ぬかもしれないじゃん!」
「仕方ねえ……ほら、手を出せ」
「何で」
「いちいち聞くな」
「わっ」

みょうじの右手を握ってやる。みょうじの怯えようはかなりのものでこいつが震えているのが握った手から伝わる。七不思議を創造し自分の生霊すら出す女の怖いものが観覧車だとはな。

「悪かった」
「え」
「観覧車が苦手なのに乗せて悪かった」
「う、ううん……大丈夫」

『マジそうだよ跡部くん反省してよね!』とか言いそうなもんだがみょうじはやけに大人しい。こんなコイツを見るのは初めてだ。

「あのさ、私の方が謝らなきゃいけないことがあるし、謝っていい?」
「あーん?だからいちいち聞くなって言ってるだろ。謝りたきゃ謝れ」

みょうじから内容バレバレの予告を受ける。隣に座って手まで握って待つのは謝罪だとか、もう傍から見れば奇妙で仕方ねえだろうが生憎ここには俺とみょうじしかいない。

「柳くんのときのこと、ほんとごめん……」
「俺様もあの時はらしくなく心の狭い対応をしちまったからな。お互い様だ」
「らしくなくって……ジャイアンのくせに」
「お前謝る気あんのか?」
「痛い痛い痛い!手がミシミシいってるから!」
「ふん。で、お前はその無い頭で俺が怒った理由が分かったのか?」
「跡部くんだって仲直りする気あるの?」
「それはお前の解答次第だな」

黙ってみょうじの解答を待つ。観覧車が頂点付近に来たところでみょうじはやっと口を開いた。正直、みょうじが何と言おうが許してやる……つもりだった。



2016/9/18修正

跡部様のお力によりあと一話分だけ長くなります。



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