「真田くんと遊園地ってカレーライスにチョコミントアイスまぜるくらいアンバランスだね」
「お前は一体どんな感性をしているんだ」
「案外いけるかもしれないじゃん」
「いや……そんな感性でなければ芸術の道は極められないということなのか?ならば書の道も」
「真面目にとりあうのはやめた方がいいぞ」

何気にひどいことを言われたけどちょっとやそっとの罵詈雑言なんてただの軽口にしか聞こえなくなっちゃった。慣れってすごい。
でもそれとは裏腹に人混みにはやっぱり慣れない……。我慢もそろそろ限界、という意味も込めて柳くんを見た。

「ねー幸村くんまだかな?何してるの?」
「精市ならそろそろ来るはずだ。もう少し待て」

数日前に私は柳くんから日曜日を空けておくように言われた。それは遊園地に行こう、ということだったらしい。大阪から帰ってきてすぐ遊園地。まあ日本にいるのも今日明日だし。
それで了承したのはいいけど、疑問が1つ。

「何で4人だけなの?」

柳くんと幸村くんと真田くん。そして私。私を除いて顔ぶれが遊園地で遊ぶ人のそれじゃない気がする。切原くんとかブンちゃんの方が合ってると思う。

「こちらにも色々な事情があるのだ」
「もしかして人数が奇数になっちゃうから……?」
「お前にしては現実的な見方だ」
「あと乗り物に乗るときペア組むと幸村くんがうるさいから……?」
「4割は正解だ」
「正解なんだ……」
「だって俺はなまえちゃんと色々乗りたいからね」

背後をアサシンに取られて生命の危機を感じるとはこのことだ。

「ゆっ幸村くん遅かったね!」
「待たせてごめんね、なまえちゃん」
「幸村、チケットは先に買っておいたぞ。それとパンフレットだ」
「すまない真田、柳。じゃあみんなで入ろうか」
「私の心臓持つかね……」
「下手な絶叫アトラクションより危険かもしれないな」
「聞きたくなかった……」
「なまえちゃんが行きたいところ決めていいよ」

幸村くんが真田くんから受け取ったパンフレットを私にも渡してくれた。パンフレットを開くと結構たくさんアトラクションがある。この遊園地は初めてだけどかなり楽しめそう。

「でも私の独断じゃ悪いよ」
「なまえちゃんがパリに行っちゃう前に楽しんでもらいたいからね」
「遠慮するんじゃないぞ」
「みんな……」
「どこにするんだ?」

みんなにこうして気を遣ってもらってすごく嬉しい。
それなら、今日は遠慮せずみんなと楽しもう。

「じゃあ中央の湖でアヒルに餌やりしてアヒルボート漕ぎたい!」
「……」
「……」
「……」
「……遠慮しないでって言ったじゃん」
「いや、良いんだよ。でもなまえちゃんはてっきり絶叫系だと」
「俺のデータには絶叫系が好きだとあるが」
「絶叫系への肩慣らしだよ」
「それは肩慣らしになるのか?」
「何ならスワンボートでもいいよ!」
「種類の問題ではない!」

何か拍子抜けしたような3人を引き連れて私は中央の湖に向かう。言質を取ったようなもんだから良いんだ!今日は全力で楽しもう!


「脚は疲れるけどのどかだぁ」
「ふふ、そうだね」

『たのしいアヒルボートのりば』は案の定過疎っていた。ペア分けのジャンケンもあっさり決まってスムーズに乗れた。私は幸村くんとペアで湖を一周。
全力で漕ぐと後に差し支えるから抑えながら漕ぐ。

「なまえちゃんとこうして遊びに来られて良かったよ」
「まだ遊び始めたばっかりなのに。まだまだこれからだよ」
「それもそうだ。最後までとっておくべきだった」
「ねえねえ幸村くんあっちのペアの絵面が面白いよ!」
「ふふふ」

幸村くんはスマホを取り出してカメラを向ける。
アヒルボートの中にぎゅうぎゅうに詰められて真田くんと柳くんがめっちゃ面白い。喋っているみたいだけど無表情なせいで会話の内容が予測不能だ。面白すぎる絶好の被写体だ。後で画像送ってもらおう。

「はいなまえちゃん」
「えっ」

カシャッ!と音がした。
私のすっとぼけた顔が幸村くんのスマホにおさめられたみたいだ。

「今私撮った?」
「もちろん」
「てっきりあの2人を狙ったのかと……」
「あの2人ならいつも会ってるから別に写真に収めなくてもいいんだ」
「いや思い出なんだし収めてあげようよ」
「なまえちゃんとは簡単に会えなくなるし、なまえちゃんが旅立ってしまう前にたくさん写真を撮っておかないと」

とか言いつつまたカシャッ!という音が。間髪入れずにか!ていうか画面見ずに写真撮るとか幸村くんめっちゃ器用だね!

「俺、結構寂しがり屋なんだ。これくらい、なまえちゃんなら許してくれるよね?」
「幸村くん本当そういうとこずるいよ」
「俺をこんな気持ちのまま日本に置いていくなまえちゃんはもっとずるいよ」
「こんな気持ちって……」
「なまえちゃん、この前の合宿の最後の夜からちょっと変わったよね」
「無視!」
「何だか吹っ切れたように見えた。俺への羨望も超克した感じで」

あ、やばい。これ幸村くんが何を言ってるのか分からんようになるいつものパターンだ。解説員の柳くんは遥かに20m先まで離れていて相変わらず真田くんとボートの中に詰められている。

「誰がいつ、君にそうさせたんだろうね」
「それは……」
「いや、何があったのかは敢えて聞かないよ。寧ろ聞きたくないんだ」

ちょっと不安だと思うのは、不安定に揺れる感覚のせいだと思い込んでおきたい。
さっきまで耳に入っていたお客の絶叫も遠く遠く感じる。
水上の半密室状態の中で幸村くんに取り込まれそうだ。

「それでも、俺が素敵だと思った君は変わらずまだいて……だから今の君も魅力的だ」
「ゆ、幸村くん」
「なまえちゃんのことが好きだよ」
「……」
「それに俺には時間がないかもしれない。そんな俺をこんな気持ちにしたまま一人残していくなんてずるい。だから写真くらい撮らせてね」

またカシャッ、って。完全に顔が真っ赤になってしまったところを激写されてしまった。
こんなことなら最初にアヒルボートにせんかったら良かったんだ……。

「あ、でも面白いからついでに真田たちも撮っておこう」
「そっちをメインに撮って!」

私の大声にびっくりして数羽のアヒルがバシャバシャやらバサバサと水音と羽音を立てた。



2016/9/18修正
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