観光客が流れた後にようやっと流れたと思ったら、そこに現れたのは白石とみょうじ。
白石とみょうじの距離はほんま30センチくらいしかない。

「ちょっと謙也くん!」
「あー。行ってもうた……」
「言い出しっぺの謙也のせいでバレるやんけ」

白石とみょうじの間に割って入ろうとしたけど自慢の足があと一歩のところで躊躇する。せやから次は口が出る。

「白石!」
「今ええとこやから邪魔するんやないで」
「ええとこって……!」
「何や、やっぱり早とちりして来おったんか?別に何もせんしそこで大人しく見とき」

俺の存在なんて気にせずみょうじは吸い込まれるようにして白石だけを見とるし。俺抜きで2人だけの世界を形成すんな。

「好きやで、なまえちゃん」
「……」
「ほんまは今日言おう思ったんやけど、まあなまえちゃんをこんなんで引き止めることなんてできへんし」
「……」
「なまえちゃんが帰ってきた時にまた言うわ。それまで俺が何言ったか気にしといてな」
「……」

みょうじは結構重大なこと言われてんのに無反応や。よう見たら耳を塞がれてることに気付いた。アホ面もそれで説明がつく。

「全然聞こえなかったよ」
「それでええねん」
「気になるじゃん!」
「せやからそれが狙い通りなんやって」
「えええ……」

解放されたみょうじは白石にせがんで教えてもらおうとしとる。
……ちゅーか何で俺この状況に自らダイブしてしまったんやろ。みょうじが聞いてもいないことを俺が聞いてもうて一人でしょっぱい気持ちになって。一番アホなの俺やんけ。

「謙也くん、今の聞いてた?」
「アホか!聞いてたとしても言うわけない……ってお前!?何で俺にナチュラルに話しかけとるねん!?」
「何かおかしかった?」
「おかしいわ!突然現れた俺に何か疑問とかあらへんのか!?」
「今日一日4人でずっとついてきてたじゃん。何を今更」
「え」
「ねー白石くん」
「なーなまえちゃん!」

ねー、とか言って白石とみょうじが笑ってるのを俺は呆然と見つめた。あと白石はどさくさに紛れてみょうじの肩を抱くのはやめんかい!

「いつ気づいたんや」
「ポケモンセンターから」
「ほとんど始めからやないかい!」
「だから今日一日って言ったじゃん」
「やはり妖怪かみょうじ」
「謙也くんまだ私を鬼太郎扱いするの!?」
「妖怪や鬼太郎やなかったら何で俺達がつけとることに気付くんや!」
「だって私のポケモンのお友達のとこに光くんが表示されたから」
「財前」

俺がこっちに近付いてくる財前を一瞥する。財前はこれっぽっちも悪びれてへん。呆れたようにため息なんぞついて、俺に一言。

「不可抗力だったんで」

不可抗力やと!?開き直るんやないで!

「あとお前らうるさすぎてバレバレやったで」

……それは不可抗力や。


「ごめんねー蔵くん黙ってついてきちゃって。謙也くんがどうしてもって言うから」
「俺だけに責任転嫁すな!」
「小春に責任転嫁するんやないで!」
「醜い争いだ……俗世間の愚かしさを体感してるよ」
「なまえさんいつ悟りを開いたんすか?」
「ええんや……俺はほとんど2人きりだと思うことにしたんや。自己暗示かけて……おかげで今以外は全力で二人きりを楽しめたで。今以外は。今以外はな」
「こっちは悟りひらくどころかめっちゃ恨んでますやん」
「ねえねえなまえちゃん」
「んー?」

白石の手をあっさりどけながら小春がみょうじに話しかける。

「ずーっと聞きたかったんやけど、なまえちゃんはどうして蔵くんを誘ったの?」
「げっ」
「流石小春!ナイスプレイや!」
「結局聞くんすか」

俺が聞きたくないことをまたまたあっさりと聞きおった。さっきは聞いてしまったが今回は聞きたくない……と俺が耳を塞ぐ前にみょうじの奴はあっさり答えおった。

「あみだくじ」

は?何やと?あみだくじ?

「…今何て?」
「(ちーちゃんが不在だったし)あみだくじ」 



私があみだくじのことを話すと謙也くんはあからさまにほっとした。

「あみだやったんか……」
「謙也はええかもしれんけど白石は大丈夫か」
「運命やな!」
「あっ大丈夫みたいね!」

なるほどくじ運の運は運命を意味していたのか……。それにしても、こうなるくらいだったらみんなを誘えば良かったな。

「光くんともバトルしたけど面と向かってすれば良かったし」
「財前……お前俺達の知らないところでDSでやりとりしてたんかい」
「先輩方必死だったから黙ってたんすよ。気遣い気遣い」
「でもなぁー……」
「誘わへんかった理由でもあるの?」
「げっ」

言えない。遊ぶ金欲しさにみんなに渡すお土産代をケチったって言えない。この雰囲気だと『お土産代ケチりたかったのかよ!』か『そんな理由で誘わなかったのかよ!』と……私は責められるに違いない。
根源的破滅招来体はもうすぐそこまで来ている。

「いや、その、なんていうか……知らない方が身の為だぞ」
「何言うとるねんコイツ」
「絶対教えない!」
「もしかして……やっぱりみょうじは白石のことが!?」
「うわああああああああ」
「謙也うるさいで!」
「やっぱりそうなの!?ロマンス!?」

何となく白石くんとの間のことを勘繰ってるのは分かる。実際何もないけども目の前で必死で盛り上がってる小春ちゃんたちの期待を裏切るのも悪いから言い出し辛いな。

「なまえさんにそんなロマンスあるわけないやろ……」
「私にだってロマンスの1つや2つあるわ!光くんより私年上だよ!?」
「それ相応の威厳を身につけてから言うて下さい」
「大阪に来てるのに若くんになじられてる気分……」
「……俺は日吉ちゃうし」

「あら?蔵くんは?」
「何や妙に大人しいな」

「なあ二人とも」

肩に手を置かれたので振り返って見上げるとそこには笑顔の白石くんがいた。光くんも肩に手を置かれてる。

「そんで二人の間にも何かロマンスがあったん?」
「ロマンス?何で?あったら苦労しないよ」
「ほんの今さっきロマンスの2つ3つあるって言うてたでしょ」
「光くん揚げ足取るの上手だね」
「なまえさんのは揚げ足配ってるって感じ」
「ぐううううう」
「なまえちゃん、財前。二人とも俺の話聞こうな?」

白石くんの威圧感はすごかった。大阪の街をミニチュアセットにして、そこに現れる特撮のラスボス並のそれ。

「それで二人は何でお互い親しく呼び合ってるん?何でなん?」
「根源破滅天使……」
「何すかその厨ニネーム」

みんなの疑惑の目は白石くんとの仲から光くんへと向けられたのであった。光くん!はた迷惑とかいうな!



2016/9/18修正

友人が「うぉううぉうガイアー」って歌い出した時は何事かと思いました。
それはダイナだよ。

サティはあと4話で終わりの予定です。


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