「通天閣めっちゃ高い……」
「なまえちゃん、高いとこ苦手やった?」
「いつもてっぺんに来た時後悔して降りた時には意外といけるやん!って思っちゃうタイプだから……ねえ、通天閣って高さいくつ?」
「100mやで。まあここはもう少し低いなあ」
「100m?100kmじゃないの?」
「あはは、キロは流石にいらんな。成層圏越えてるで」
「100mでこれ……この6.34倍あるスカイツリーはやはり天国に近い場所か……絶対行くのやめとこ……」 


白石とみょうじのデートを尾行して分かったことがあった。

「あ、ここには元々来たかったから気にしないで!怖いものみたさっていうか……」
「分かっとるから気にせんでええよ」
「ジェットコースターは平気なんだけどね」

この2人、1日を通して意外とカップルしとる。白石が自分のホームグラウンドであることを最大限に活かして王道のスポットを巡りつつ、みょうじの満足するようなお店まで回る。みょうじが寄り道したがるであろうスポットもできうる限り想定しとった。

「夜景が綺麗だなぁ……」
「なかなか壮観やろ?」
「人も町も小さいなぁ。幸村くんってこんな気分なのかね」
「幸村くんを世界の支配者かなんかと思ってるんかな?」

うん、とさらりと認めているがみょうじの関心はまだ眼下に広がる鮮やかな夜景や。
2人がカップルになりきれてないのはみょうじに全ての原因がある。コイツのマイペースな言動だけが俺達を現実に引き戻してくれる……白石は可哀想やけど。

「なあ、なまえちゃん」

白石がなまえに向き直った。
大事な話を切り出すつもりみたいや。
俺達はそれを固唾を飲んで見守る。

「何?」
「なまえちゃんパリに行くってほん…」
「ほんとだよ」

か、かぶせた!アイツ被せやがった!
ちゅーか白石はみょうじからパリに行くって直接聞いてショックがでかい……ってあれ?

「……そっか」

白石が冷静で俺達は思わず顔を見合わせる。ショックのあまり倒れてまう!と思ってたんに。

「不安もあるけどすごく楽しみなんだ!白石くんにもお土産買ってくるね!何がいいかな〜」
「……」

それどころか、白石は楽しそうなみょうじを仕方ないなぁ、みたいな達観した顔して見とる。彼氏か。それから何でか背後にも気を配りながら話し始める。

「ほんまはな、今日なまえちゃんに言いたいことあったんやけど」

気を配ってたんは……まさか。

「言いたいこと?もしかして良くないこと?私白石くんに何かした?」
「今更やで!数ヶ月前にどえらい爆弾を俺に落としたのはなまえちゃんやろ」
「そんな破壊工作した覚えないぞ!身に覚えのないことでクレームつけられても困るよ」
「別にクレームやない。な……ちょっとこっち寄って」

白石がみょうじの腕を引き寄せて、ちょっとかがんだ。今度こそ何か言うつもりや……。何かってさっきが留学の話なら次は9割9分アレしかない。

「皆様こちらになりまーす」
「きゃー!きれーい」

「って観光客!」
「しかも団体かい!」
「2人はどこ!?どこなの!?」

一斉に流れ込んできた観光客のせいで白石とみょうじを見失ってしもた!こんな肝心なときに限って!もしかして白石、まさか謀ったか!?お前もしかして俺達がつけてんの気付いてるんちゃうか!?



「なまえちゃんがパリから帰って来てからまた言うてもええかな?」

観光客がたくさん入ってきて少し騒がしくなったのに白石くんの声だけはちゃんと聞こえた。
ていうか、パリから帰って来てからって。そんな次回予告みたいなの言われたら気になるに決まってるじゃん。

「今はダメなの?」
「言うつもりやったけど今の楽しそうななまえちゃん見ててやめたわ」
「えー、何か気になるじゃん」
「それが狙いやねん」

白石くんは割りと饒舌な方だと思うけど、意外にこの前のシャンプーもしかり、肝心なところは私には話してくれたり教えてくれない。

「狙いかぁ……でも白石くん忘れたりしない?」
「ああ、そんなんありえへんから安心して」
「ばっさり。自信あるな」
「俺のこの気持ちが本物やって信じとるからな」
「本物?」
「信じとる、ちゅーか確信や」

白石くんくらいしっかりしてる人が言うと説得力しかない。白石くんの思惑通り、このまま白石くんの言いたいことが気になったままパリに行き待ったなしだ。

「帰ってきたら俺に聞きに来てな。約束や!絶対。絶対やで!」
「分かってるよ」
「俺はシャンプーの件忘れてへんで」

それはちょっと悪かったと思ってるよ。まだ根に持ってたのか……。
白石くんは私に小指を出してくる。指切りしようってことか。私は白石くんの白くて細い小指に、同じ小指を結ぶ。

「ゆびきりげんまんウソついたらハリセンボンのーますっ、って歯切れ悪すぎるよ白石く……白石くん?」
「あーほんまにあかん。なまえちゃんちょっとだけ俺のこと見んといて」

そう言われて後ろを向かされる。私の記憶には夜景と同じくらい鮮明に残されてしまった。白石くんの泣きそうな顔。いつも笑ってるイメージしかなかったからびっくり。

「どうしたの?大丈夫?」
「はぁー……俺、情けなくなったわ」
「私は白石くんが情けないなんて思わないけどな」
「はは、おおきに。なまえちゃん、やっぱ俺のやりたいこと、半分だけやらせて」

全部吐き出せばスッキリするのに、どうしてそんなに遠慮するんだろう。
白石くんは私の目の前を占領すると、私の耳を両手で塞いだ。



2016/9/18修正

とりあえず100話までには!!
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