「なまえちゃん遊びに来たで」
「お帰りください!私はおたくの牛乳はとらない!」
「そういわずに奥さん」

メガネをかけた胡散臭い牛乳屋さんはドアを閉めようとした所に足を滑り込ませて妨害する。慣れてやがるなこいつは!

「牛乳がダメならこれはどうや?」
「ど、どら焼き!」

胡散臭い牛乳屋は和菓子屋に早変わりした。和菓子屋……もとい忍足くんの持ってるどら焼きはパッケージからしてむっちゃ高そう。

「うわぁ!高そうなどら焼き!」
「ばっちりドラえもん声になるんやな……5個入り5400円やで」
「高い!私には買えない!」
「お気に召さん場合はクーリングオフもアリ」
「クーリングオフ制度なんて当たり前じゃん」
「せやな。じゃあなまえちゃんの最優秀賞獲得記念で-5400円引きや」
「ジャパネットならそれに牛乳もつけてくれるのに」
「図々しいな自分」

冗談だって。
高級どら焼きを手土産にした忍足くんを家にあげる。そういえば、男子をあげたことなんてあんまりないな。氷帝ならがっくんくらいじゃないかな?
一応お客さんである忍足くんに飲み物を出してどら焼きの箱を開ける。

「うわーもう甘い匂いする!」
「なまえちゃん、お茶は?」
「飲み物あげたじゃん」
「みょうじ家じゃお客さんに牛乳出すんか」
「郷に入っては郷に従えっていうじゃん!出したの初めてだけど」
「普通にコーヒーとかでええやん!」  

コーヒーとか中学生に出すもんじゃないし!牛乳以外無かったんだから仕方ないじゃん。文句が多いなぁ。

「それよりこのどら焼きどれがどんな味なの?全部一緒?」
「さあ、別に俺が買うてきたわけやないし」
「えっ、そうなの?」
「俺はどら焼きに5400円使うほど金銭感覚ズレとらんわ」
「カップ麺は?」
「高くて150円くらいやろ」
「ホントだ普通だ」

じゃあ、このどら焼き誰が買ってきたんだろう。
金粉まで乗ってて1つ1050円のどら焼き。しかも多分外税でしょ。

「なまえちゃんが仲直りしてくれてたら俺もこんなお使い頼まれんで済んだのにな」
「あー……跡部くんか」
「まあなまえちゃんの家にお邪魔できただけで役得って奴や」
「何写メってんの?」

忍足くんは壁にあった私の幼稚園の頃の絵を撮影し始めた。やめんか!『幼稚園の頃の方が上手や』だって?うるさい!

「なまえちゃんの部屋には上げてくれへんの?」
「今汚いから絶対あげない。めっちゃお化けの金太が転がってるから」
「お化けの金太?」
「熊本の伝統工芸品だよ。顔から出てる紐引っ張ると一瞬白目ひん剥いてあっかんべーってするおもちゃ」
「何でそんなもん転がっとんねん」

フランスのお土産にするつもりで買ったやつだ。家族には信じられないくらい不評で、でもまあ、お小遣いが勿体無いからもうそれをお土産にしないといけないんだけどもね。

「じゃあ忍足くんもどら焼き食べる?」
「遠慮しとくわ。跡部に『絶対食うな』って念押された」
「なんで?」
「なまえちゃんに全部食べてもらいたいんやろ」 
「でも一人で食べるより二人で食べた方が美味しいって」
「なまえちゃん……何かめっちゃ優しゅうなったな」
「1口だけね」
「ほんまセコいで」

言っていることが矛盾してるよ忍足くん。なんかあれこれ責めてくるけど私は別に1つあげるなんかいっとらんし。5400円をできるだけ全部一人で味わいたいじゃないか。

「あーこれほんまうまいな」
「牛乳と合う」
「なまえちゃん俺が来るまでに牛乳と何かあったん?」
「忍足くんが来る前に牛乳屋さんから牛乳買った」
「もう既にセールスされた後だったか……」
「おかげで今月のお小遣いとコンクールのお父さんとお母さんや親戚一同からのお祝い金ぜーんぶ牛乳と金太に消えた」
「ひっどい無駄遣いを見た」

金太は日本の伝統文化を伝えるのには安すぎるとして、まあ牛乳は自分でも擁護できない。無駄遣いがバレないよう何とか2L分私と忍足くんで消費しよう。

「それで、跡部と仲直りはせんの?」
「しようと思ってるけど何かメールで謝るくらいじゃ跡部くんは許してくれる気しないもん」
「分かっとるやん……」
「でも切り出し方が分からない」
「ずるずる引きずってタイミング逃すやつや」
「ぐうう……その通りでございます」
「跡部も一緒やけどな。まあせいぜい頑張りーや。俺は見てて楽しいで」
「なんか忍足くんに押されるのプライドが許したくないって言ってる」
「俺は本来こういうキャラなんやで」
「ほらカッカしなさんな!飲め飲めーい」
「いやもう牛乳いらへんから!」

跡部くんと仲直りするタイミングを掴めずにいるのは本当。ちょうど柳くんにも言われたな。

『跡部と仲直りしたか?コンクールに来ていたようだが』
『ううん。すぐいなくなっちゃってタイミング逃した』
『お前たちはなかなか面倒だ』
『好きでこんなにこじれてるわけじゃないし』
『菓子が切れた時の丸井と同レベルだ』
『それって子どもっぽいってこと?』
『そんなことより今週末の日曜日空けておけ』
『無視!』

そんなことよりと言われた時は持ってたスマホが折れるかと思ったよ。知的イケメンに反感を抱いたのはこの時が今までの人生十数年の中で初めてだった。柳くんと乾汁くんは本当にイレギュラーだ。

どら焼き、めっちゃ美味しい。
跡部くんにお礼言いたかったなー。できれば一緒に食べたかった。

「跡部くんがいたら一口くらいあげたのにな」
「どこまでもセコいんやななまえちゃん」
「セコくない!もちろんオプションもつける」
「牛乳やろ?」
「牛乳じゃなくてカニつける」
「まさか訪問販売じゃないやろな?」
「違うよ」
「はぁ……安心したわ」
「何か勝手に届いた」
「それは送りつけ商法や!ネガティブオプションいうんや!」

忍足くんがいなかったらどうなってたことか。
私は生まれて初めて忍足くんに感謝した。


2016/9/18修正

前の話が恥ずかしくてキャラとの絡みが少なすぎたので同時にアップ

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